指揮官の期待に応えたいという思いが「プレッシャー」に
阪神タイガースの鳥谷敬の調子が、なかなか上がらない。キャプテンの不調ぶりに、やきもきしているタイガースファンの方も数多くいるのではないだろうか。
鳥谷の成績
開幕から主に6番ショートとして出場。3番打者を任されていた新外国人選手ヘイグの二軍降格により、1番や3番、5番として起用される試合もあったが、結果を残せなかったため、5月には8番を打つことさえあった。6月1日現在の打率.244は、セリーグ規定打席到達者32選手のうち、28番目の成績。失策数もリーグ2位の7を記録している。まさに攻守に精彩を欠いている状態だ。
不調の原因を一言で言えば、「プレッシャー」だろう。
金本新監督の期待に応えようとする気持ちが、空回りしてしまっている。
かつて慕っていた先輩が、新監督としてチームにやってきた。
その新監督は、就任当初から「キーはキャプテンの鳥谷」という旨をメディアで発言してきた。鳥谷には、「どうしても頑張らねば」という気持ちが芽生えただろう。今年の春季キャンプで話した時も、「なんとしても監督の期待に応えたい」と必死だったことを憶えている。ただ残念ながら、その強い気持ちが、今のところプレッシャーとして裏目に出てしまっているのだろう。
鳥谷を8番に据えた起用法は、メディア上で物議を醸したようだ。
チームの顔である選手なのだから、8番ならベンチに下げたほうがいい。そういう指摘もあったという。
しかし私は、鳥谷がチームの顔であるという意見には同意するが、ベンチに下げることには首をかしげる。何番だろうとスタメンで使い続けるべきだと思うし、金本監督も怪我などのアクシデントがない限り、そうするだろう。
鳥谷は現在、連続試合フルイニング出場の記録を継続している(フルイニング出場は、遊撃手史上最高の629試合。連続試合出場記録は1663試合。※いずれも6月1日現在)。そして、その記録の偉大さや尊さを最も理解している人物こそ、フルイニング出場の世界記録を保持している金本監督だ。
連続試合出場の記録が継続している要因は、もちろん鳥谷自身が元気にプレーし続けているから。ただ、選手を起用する立場の監督の視点からいえば、それは岡田彰布監督、真弓明信監督、和田豊監督という歴代の監督たちが引き継ぎながら打ち立てた記録ともいえる。そんな大記録を新人監督が簡単に途絶えさせるはずはない。他者の意思によって記録が途絶えることの悔しさを知っている金本監督ならなおさらだ。鳥谷本人が「下げてください」と直訴してくるまで、試合中にベンチに置き続けることはないだろう。
守備の衰えはエラーの数だけ評価できない
一部のメディアでは、年齢による限界説まで囁かれているようだが、私はそうは思わない。
もちろん、衰えが全くないといえば嘘になる。守備に関して、多少、肩が弱くなったため、守備位置を前にとらざるを得なくなり、結果として守備範囲が狭くなってきているのは確かだ。しかし、それでも十分に一軍レベルはキープしている。
それに、エラーの数だけで能力の低下を論じるのは、かなり乱暴だと思う。
ギリギリの打球にどこまでチャレンジするか。つまり、打球を最後まで追いかけるかどうかで、守備率は大きく変わってくる。無難な守備に徹すれば、エラーの数はかなり抑えられるのだ。
私は現役時代、ショート小坂誠の守備力に大きく助けられた。
小坂は当時、名手と呼ばれていたが、実は決してエラーの数が少なかったわけではない。どんな打球にも食らいつき、無理な体勢でも捕球したため、グラブからボールがこぼれる回数も多かったわけだ。もちろん、その分、ヒット性の当たりを放った打者を何度もファーストで刺してくれた。投手として、本当に頼りになる存在だった。守備率だけでは、内野手の本当の能力は測れない。
鳥谷にはまだ、タイガースのリーダーとして活躍する力がある。
タイトルを獲得するような、びっくりする数字を残すのは難しいかもしれないが、一流打者の証である打率3割のラインならば十分、狙えるだろう。
老け込むにはまだ早い。これからの巻き返しを大いに期待している。
――――――――――
小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。
阪神タイガースの鳥谷敬の調子が、なかなか上がらない。キャプテンの不調ぶりに、やきもきしているタイガースファンの方も数多くいるのではないだろうか。
鳥谷の成績
開幕から主に6番ショートとして出場。3番打者を任されていた新外国人選手ヘイグの二軍降格により、1番や3番、5番として起用される試合もあったが、結果を残せなかったため、5月には8番を打つことさえあった。6月1日現在の打率.244は、セリーグ規定打席到達者32選手のうち、28番目の成績。失策数もリーグ2位の7を記録している。まさに攻守に精彩を欠いている状態だ。
不調の原因を一言で言えば、「プレッシャー」だろう。
金本新監督の期待に応えようとする気持ちが、空回りしてしまっている。
かつて慕っていた先輩が、新監督としてチームにやってきた。
その新監督は、就任当初から「キーはキャプテンの鳥谷」という旨をメディアで発言してきた。鳥谷には、「どうしても頑張らねば」という気持ちが芽生えただろう。今年の春季キャンプで話した時も、「なんとしても監督の期待に応えたい」と必死だったことを憶えている。ただ残念ながら、その強い気持ちが、今のところプレッシャーとして裏目に出てしまっているのだろう。
鳥谷を8番に据えた起用法は、メディア上で物議を醸したようだ。
チームの顔である選手なのだから、8番ならベンチに下げたほうがいい。そういう指摘もあったという。
しかし私は、鳥谷がチームの顔であるという意見には同意するが、ベンチに下げることには首をかしげる。何番だろうとスタメンで使い続けるべきだと思うし、金本監督も怪我などのアクシデントがない限り、そうするだろう。
鳥谷は現在、連続試合フルイニング出場の記録を継続している(フルイニング出場は、遊撃手史上最高の629試合。連続試合出場記録は1663試合。※いずれも6月1日現在)。そして、その記録の偉大さや尊さを最も理解している人物こそ、フルイニング出場の世界記録を保持している金本監督だ。
連続試合出場の記録が継続している要因は、もちろん鳥谷自身が元気にプレーし続けているから。ただ、選手を起用する立場の監督の視点からいえば、それは岡田彰布監督、真弓明信監督、和田豊監督という歴代の監督たちが引き継ぎながら打ち立てた記録ともいえる。そんな大記録を新人監督が簡単に途絶えさせるはずはない。他者の意思によって記録が途絶えることの悔しさを知っている金本監督ならなおさらだ。鳥谷本人が「下げてください」と直訴してくるまで、試合中にベンチに置き続けることはないだろう。
守備の衰えはエラーの数だけ評価できない
一部のメディアでは、年齢による限界説まで囁かれているようだが、私はそうは思わない。
もちろん、衰えが全くないといえば嘘になる。守備に関して、多少、肩が弱くなったため、守備位置を前にとらざるを得なくなり、結果として守備範囲が狭くなってきているのは確かだ。しかし、それでも十分に一軍レベルはキープしている。
それに、エラーの数だけで能力の低下を論じるのは、かなり乱暴だと思う。
ギリギリの打球にどこまでチャレンジするか。つまり、打球を最後まで追いかけるかどうかで、守備率は大きく変わってくる。無難な守備に徹すれば、エラーの数はかなり抑えられるのだ。
私は現役時代、ショート小坂誠の守備力に大きく助けられた。
小坂は当時、名手と呼ばれていたが、実は決してエラーの数が少なかったわけではない。どんな打球にも食らいつき、無理な体勢でも捕球したため、グラブからボールがこぼれる回数も多かったわけだ。もちろん、その分、ヒット性の当たりを放った打者を何度もファーストで刺してくれた。投手として、本当に頼りになる存在だった。守備率だけでは、内野手の本当の能力は測れない。
鳥谷にはまだ、タイガースのリーダーとして活躍する力がある。
タイトルを獲得するような、びっくりする数字を残すのは難しいかもしれないが、一流打者の証である打率3割のラインならば十分、狙えるだろう。
老け込むにはまだ早い。これからの巻き返しを大いに期待している。
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小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年、千葉県生まれ。早稲田大学を経て、89年ドラフト1位でロッテ・オリオンズ(現千葉ロッテマリーンズ)へ入団。精度の高い制球力を武器に1年目から先発ローテーション入りを果たすと、以降、千葉ロッテのエースとして活躍した。00年、横浜ベイスターズ(現横浜DeNAベイスターズ)へ移籍。02年はボビー・バレンタイン監督率いるニューヨーク・メッツでプレーした。04年に古巣・千葉ロッテへ復帰、09年に現役を引退した。現在は、野球解説者、野球評論家、Jリーグの理事も務める。