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上位を狙う西武の新しい試み。プロ球界初、夏場対策の秘密兵器を導入

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サッカードイツ代表やメジャーでも導入

 交流戦以降の戦いで上位巻き返しを狙う西武にとって、重要になるのは戦力を整えることばかりではない。ポイントの一つが、夏場の西武プリンスドーム対策だ。

 7、8月に1度でも訪れたことのある人なら身にしみてわかるだろうが、完全密閉でない西武プリンスドームは冷房で温度調整しない一方、熱がこもりやすく、人工芝からの熱の反射や湿度も手伝いかなりの体感温度に感じられる。

 対戦相手には顔を真っ赤にして熱中症の症状を訴える捕手もいたくらいで、「12球団で最も過酷な環境」とも言われるほどだ。ライバル球団の選手が、「西武はこういう環境で練習しているから、若手が伸びるのかもしれない」と話していたこともある。

 しかし、ホームチームの西武はどこよりも多く酷暑の本拠地で戦うことになり、昨年夏にはオールスターをはさんで悪夢の13連敗(ホームで7敗)を喫した。疲労がたまりやすく、コンディション対策は毎年の課題となっている。

 そこで今季、アメリカから“秘密兵器”が導入された。「コア・コントロール」という、スタンフォード大学の教授が約10年の歳月をかけて開発した高速熱交換システムだ。アスリートだけでなく、軍人、消防士など運動や過酷な労働を行う者に有用だとされる。

 仕組みとしては、人間の手のひらには放熱・冷却のための特殊な血管があり、ここを適度に吸引・冷却することで、運動によって上昇した体内深部の温度を急速かつ効率的に元の体温に戻すことができる。

 簡単に言えば、効果は疲労除去、ケガ予防、パフォーマンス向上だ。メジャーリーグのインディアンスやレンジャーズ、NBAやNFLの各チーム、2014年のサッカーW杯を制したドイツ代表も導入し、2015年世界陸上では男子マラソンの藤原正和、前田和浩が使用して話題になった。

 西武ではトレーナーが昨年オフに渡米し、実物を見て採用することに決めたという。

坂元忍コーチが語るコア・コントロールの効果

「ようやく届きました。今日、先発の(佐藤)勇に使ってもらおうかな」

 西武の坂元忍トレーニングコーチが5月31日の試合前、まるで新しいゲームを手にした少年のように声を弾ませた。DeNAとの交流戦初戦を迎えたこの日、佐藤によればまだ使われなかったとのことだが、2軍の試合ではすでに導入されている。

 坂元コーチは「まだ季節的に暑くないですから」と今の時期の試合でどこまで効果を発揮するかはわからないとしたが、自身で使ってみて、その効用を確かに感じた。

「ピッチャーなら、グローブをはめているほうの手を器具に入れて使います。僕がやってみて『だいぶ冷えたな』と思って、周りに触ってもらったら『そんなに冷えてない』と言っていました。つまり、体の中が冷えているということです。西武ドームでは夏場の対策が必要になるので、飲み物などを含め、夏場に向けて対策を打っていきたい」

 コア・コントロールは3~10分で効果を得られるため、野球ではイニング間にどれだけうまく使えるかがポイントになる。先発投手のなかにはベンチに帰ってくるたび、イニングごとにアンダーシャツを着替える者もおり、攻撃が早く終わると使用は難しいかもしれない。

 ちなみに、野球では「肩を冷やすな」と言われるが、その理由を簡単に説明すると、「肩を冷やすと血管が収縮し、血行が悪くなるため、疲労回復が遅れる」からだ。一方、コア・コントロールは血流を促進させる効果があり、「肩を冷やすな」という言い伝えの趣旨に反することはない(蛇足だが、「肩を冷やすな」やアイシングの是非は専門家の間で議論が交わされ、答えはいまだに出ていない)。

 果たして、シーズン中盤に向けて投手陣を整備している西武にコア・コントロールはどんな効果を与えるのか。グラウンド上の戦いに影響を及ぼす、裏側の夏場対策にも注目していきたい。

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