↑左足を大きく挙げてタイミングをとる「逆一本足打法」でスタンドを驚かせた和光の2番打者・室橋達人
↑ド派手なガッツポーズで「絵になる選手」でもある東大エース・宮台
何が起こるか、現場に行ってみないとわからない。それがアマチュア野球の魅力。写真記者としてアマ野球を取材することの多かった2016年。現場でそのことを改めて痛感した今シーズンだった。
スタートは東大の左腕・宮台康平だった。今春の東京六大学野球リーグ戦では、明大の柳裕也(中日ドラフト1位指名)など各校のエースと毎週のように互角の投げ合いを繰り広げ、完封を含むリーグ戦2勝。6月には日米大学野球を戦う日本代表にも選出され、第3戦で先発し最速150キロまでマーク。4月の時点では「とりあえず宮台も撮影しておかないと」という存在が、6月には一挙手一投足すべてをカメラで追いかけるようになった。昨季まで大型連敗にあえいでいた東大のエースが、一面、終面を何度も飾る。こんな事態を誰が予想しただろうか。
サプライズは続いた。6月の全日本大学野球選手権。初出場の中京学院大学を引っ張ったのは、今年の大学ナンバーワン遊撃手と評されながら、実際のプレーを見た人はまだ少なかった吉川尚輝。1回戦の初打席で先制適時三塁打を放つと、次の試合で4安打。全5試合連続安打を放ち、あっという間に初優勝まで駆け上がった。10月には外れとはいえ巨人がドラフト1位指名。岐阜の知る人ぞ知るドラフト候補はシンデレラボーイになった。
そして最も驚かせてくれたのが、和光高校の室橋達人捕手だ。7月の高校野球西東京大会1回戦・和光-狛江戦。当初の目的は、歌手である松崎しげる氏を父に持つ優輝外野手を取材することだった。が、4番を打つターゲットより先に登場した2番打者のバッティングフォームを見て、思わずシャッターを押しまくった。左打者は通常、イチローのように右足を上げてボールを捕えにいくが普通だが、室橋君が上げるのはなんと左足。左足を上げてタイミングをはかり、最後はすり足で打つ。
逆一本足打法と表現するしかない打ち方に一瞬にして目を奪われた。2打席目も3打席目も続く逆一本足。2打席目には三塁打も飛び出した。試合は健闘及ばず和光の初戦敗退となったが、翌日の紙面にはこの唯一無二といえる打撃フォームが大きく紙面を飾った。東京の大会とはいえ、強豪校の絡まない1回戦。もちろんペン記者が持つ各校のアンケート資料にもこんなことは掲載されていない。球場に行かなくては日の目を見なかったであろう逆一本足。取材対象を決めつけず、目を皿のようにして現場を見る。室橋君は最近薄れかけていた写真記者の基本を思い出させてくれた。実は彼はまだ今年2年生。来年2017年にあの逆一本足打法がどんな進化を遂げているか、また取材に行ってみたいと思う。(記者コラム・泉 貫太)