誰をも魅了する棚橋弘至の笑顔。エースとしての完全復活をファンは待っている
こんなにもファンは「100年に1人の逸材」を愛していた。
新日本プロレスの棚橋弘至(41)が右膝変形性関節症のため、30日の青森・青森武道館大会から2月10日の大阪府立体育会館大会まで欠場することが29日、新日広報部から発表された。本紙webも即座にこの記事をアップ。とたんに棚橋ファンからの激励コメントが殺到した。
驚かされたのが、早期復帰を望む内容がほぼゼロなこと。
「ちょこちょこ休むより数か月、きちんと休んだ方がいい」
「ここ数年は見ていても痛々しくなるくらい試合のクオリティが落ちていた。ようやくDL(故障者リスト)入りできたということ。ゆっくりケガを治して下さい」
「右膝変形性関節症は本来、高齢者に多いケガです。長年の酷使でヒザが悲鳴をあげているんだから、長期欠場を勧めます」
「試合を見られないのは辛いけど、ファンは理解しているから。タナの復帰をじっくり待ってます」
どうだろう。愛情あふれる言葉の数々―。1月4日の東京ドーム大会で3万4995人の大観衆を集客するなど現在のプロレス界で独り勝ちとも言える新日。今、そのリング上で輝きを放っているのが、「レインメーカー」オカダ・カズチカ(30)と大人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」を率いる内藤哲也(35)の2人であることは間違いない。
しかし、その前の10年間の冬の時代、不振の新日マットをたった一人で支え続けたのは誰だったか。
あえて自分から「エース」を名乗り、一時はスポーツ新聞記者を目指していた「言葉の力」でバラエティーにも多数出演。休日を返上して地方のラジオ局やタウン誌まで回り大会をプロモーション。広報マンとしての役割まで長年に渡って果たしてきた棚橋がいたからこそ、今の新日の隆盛がある。
新日を支える「エース」が誰かは、みんな分かっている。今でも「ゴー、エース!」の大合唱のもと、そのエアギターに熱狂するプ女子たち。その熱い思いそのままのコメントが、web上にはあふれていた。
棚橋自身、今回のケガの深刻さは分かっているはずだ。直接的な原因は、27日の北海きたえーる大会メインイベントでのIWGPインターコンチネンタル・ヘビー級戦。挑戦者・鈴木みのる(49)の右ヒザへの執拗な関節技の前に屈辱のレフェリー・ストップで敗北。5度目の防衛に失敗し、王座から陥落した。
起き上がれず、担架で運ばれる姿にファンは悲鳴を上げたが、そのヒザはとっくに限界を迎えていた。
昨年11月にも右ヒザを痛め、12月11日の福岡大会まで欠場。診断名は骨挫傷。1月4日の東京ドーム大会でリング復帰を果たしたが、試合後の会見で棚橋は「医師からは再発の可能性もあると言われています。今日1日でもいいから、もってくれという気持ちだった」と、決死の思いでの強行出場だったことを明かしていた。
そこにあるのは、団体のエースとしての責任感。棚橋が出るか否かは集客を大きく左右する。
しかし、責任感ゆえの強行出場が、その体を蝕んだのは事実。トップロープから天高く飛ぶハイフライフロー。切れ味抜群のスリングブレイド。その必殺技の数々がもろ刃の剣として、181センチ、101キロの美しい肉体を痛めつけ続けた。抜群の身体能力を持つゆえに限界まで酷使し続けたヒザが、長年のレスラー生活の中で、まず悲鳴をあげたと言える。
自身の背中を追いかけてきたオカダ、内藤の台頭の中、棚橋が限界を感じ始めているのは間違いない。
16年のインタビューでは「僕は、ただかっこいいだけなんですよ。後は普通なんですね」と自虐的に明かし、大きな話題を呼んだ。
今年9月には初の主演映画「パパはわるものチャンピオン」(藤村亨平監督・脚本)が公開されるなど、抜群のルックスとタレント性を武器に、軸足を徐々にリング外に移そうとしているかにも見える。
それでも、全盛期を過ぎてから棚橋の試合を取材し始めた私は「落日」に入ってからの、その姿にこそ魅力を感じてしまう。
1・4の試合後、「悔しい! 悔しいよ。俺がメインの時はここまで観客を呼べなかったから。悔しさしかないです」と端正な顔をゆがめ、「メインじゃない理由は分かっている。俺自身(の体調)にあるから…。」「話題の中心になりたい。チヤホヤされたい。後は覚悟だけです!」と言い切った、その姿。
その直前、1・4のカード発表会見で直接聞いた「まだまだ終わらないですから。これから全盛期を迎えるんで。皆さん、覚悟しといて下さい!」という言葉もグッと心に響いた。
私見だが、棚橋の今のポジションは初場所で5場所連続休場となった横綱・稀勢の里(31)に似ていると思う。誰をも引きつける唯一無二の雰囲気と文句のない実力。それにも関わらず、ケガに苦しみ、イライラさせる試合内容。棚橋も稀勢の里もリングに立つだけで、土俵に立つだけで満足という熱狂的ファンがいる反面、実際の戦いの場では、ここのところ満足の行く戦いを見せられていない。それでも、ファンはじっと待っているところまで似ている。
「ゴー・エース!」の大歓声で迎えられた棚橋が最後にファンに向かって放つ決めゼリフが「皆さん、愛してま~す!」。そう、みんな棚橋を愛している。そして、その完全復活をじっと待ち続けている。(記者コラム・中村 健吾)
こんなにもファンは「100年に1人の逸材」を愛していた。
新日本プロレスの棚橋弘至(41)が右膝変形性関節症のため、30日の青森・青森武道館大会から2月10日の大阪府立体育会館大会まで欠場することが29日、新日広報部から発表された。本紙webも即座にこの記事をアップ。とたんに棚橋ファンからの激励コメントが殺到した。
驚かされたのが、早期復帰を望む内容がほぼゼロなこと。
「ちょこちょこ休むより数か月、きちんと休んだ方がいい」
「ここ数年は見ていても痛々しくなるくらい試合のクオリティが落ちていた。ようやくDL(故障者リスト)入りできたということ。ゆっくりケガを治して下さい」
「右膝変形性関節症は本来、高齢者に多いケガです。長年の酷使でヒザが悲鳴をあげているんだから、長期欠場を勧めます」
「試合を見られないのは辛いけど、ファンは理解しているから。タナの復帰をじっくり待ってます」
どうだろう。愛情あふれる言葉の数々―。1月4日の東京ドーム大会で3万4995人の大観衆を集客するなど現在のプロレス界で独り勝ちとも言える新日。今、そのリング上で輝きを放っているのが、「レインメーカー」オカダ・カズチカ(30)と大人気ユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」を率いる内藤哲也(35)の2人であることは間違いない。
しかし、その前の10年間の冬の時代、不振の新日マットをたった一人で支え続けたのは誰だったか。
あえて自分から「エース」を名乗り、一時はスポーツ新聞記者を目指していた「言葉の力」でバラエティーにも多数出演。休日を返上して地方のラジオ局やタウン誌まで回り大会をプロモーション。広報マンとしての役割まで長年に渡って果たしてきた棚橋がいたからこそ、今の新日の隆盛がある。
新日を支える「エース」が誰かは、みんな分かっている。今でも「ゴー、エース!」の大合唱のもと、そのエアギターに熱狂するプ女子たち。その熱い思いそのままのコメントが、web上にはあふれていた。
棚橋自身、今回のケガの深刻さは分かっているはずだ。直接的な原因は、27日の北海きたえーる大会メインイベントでのIWGPインターコンチネンタル・ヘビー級戦。挑戦者・鈴木みのる(49)の右ヒザへの執拗な関節技の前に屈辱のレフェリー・ストップで敗北。5度目の防衛に失敗し、王座から陥落した。
起き上がれず、担架で運ばれる姿にファンは悲鳴を上げたが、そのヒザはとっくに限界を迎えていた。
昨年11月にも右ヒザを痛め、12月11日の福岡大会まで欠場。診断名は骨挫傷。1月4日の東京ドーム大会でリング復帰を果たしたが、試合後の会見で棚橋は「医師からは再発の可能性もあると言われています。今日1日でもいいから、もってくれという気持ちだった」と、決死の思いでの強行出場だったことを明かしていた。
そこにあるのは、団体のエースとしての責任感。棚橋が出るか否かは集客を大きく左右する。
しかし、責任感ゆえの強行出場が、その体を蝕んだのは事実。トップロープから天高く飛ぶハイフライフロー。切れ味抜群のスリングブレイド。その必殺技の数々がもろ刃の剣として、181センチ、101キロの美しい肉体を痛めつけ続けた。抜群の身体能力を持つゆえに限界まで酷使し続けたヒザが、長年のレスラー生活の中で、まず悲鳴をあげたと言える。
自身の背中を追いかけてきたオカダ、内藤の台頭の中、棚橋が限界を感じ始めているのは間違いない。
16年のインタビューでは「僕は、ただかっこいいだけなんですよ。後は普通なんですね」と自虐的に明かし、大きな話題を呼んだ。
今年9月には初の主演映画「パパはわるものチャンピオン」(藤村亨平監督・脚本)が公開されるなど、抜群のルックスとタレント性を武器に、軸足を徐々にリング外に移そうとしているかにも見える。
それでも、全盛期を過ぎてから棚橋の試合を取材し始めた私は「落日」に入ってからの、その姿にこそ魅力を感じてしまう。
1・4の試合後、「悔しい! 悔しいよ。俺がメインの時はここまで観客を呼べなかったから。悔しさしかないです」と端正な顔をゆがめ、「メインじゃない理由は分かっている。俺自身(の体調)にあるから…。」「話題の中心になりたい。チヤホヤされたい。後は覚悟だけです!」と言い切った、その姿。
その直前、1・4のカード発表会見で直接聞いた「まだまだ終わらないですから。これから全盛期を迎えるんで。皆さん、覚悟しといて下さい!」という言葉もグッと心に響いた。
私見だが、棚橋の今のポジションは初場所で5場所連続休場となった横綱・稀勢の里(31)に似ていると思う。誰をも引きつける唯一無二の雰囲気と文句のない実力。それにも関わらず、ケガに苦しみ、イライラさせる試合内容。棚橋も稀勢の里もリングに立つだけで、土俵に立つだけで満足という熱狂的ファンがいる反面、実際の戦いの場では、ここのところ満足の行く戦いを見せられていない。それでも、ファンはじっと待っているところまで似ている。
「ゴー・エース!」の大歓声で迎えられた棚橋が最後にファンに向かって放つ決めゼリフが「皆さん、愛してま~す!」。そう、みんな棚橋を愛している。そして、その完全復活をじっと待ち続けている。(記者コラム・中村 健吾)