プロ野球の巨人が今オフ、例年にない大型補強を敢行中だ。その中でも“超目玉”と言うべきスペシャリストのお披露目が12月19日、東京都内のホテルで行われた。日本ハムからFA(フリーエージェント)となっていた陽岱鋼外野手の巨人入団会見だ。契約条件は5年総額15億円(推定)で与えられた背番号はかつて小笠原道大(現中日二軍監督)や井端弘和(現一軍内野守備走塁コーチ)ら蒼々たる面々の背負った「2」。この日は日本だけでなく、台湾メディア7社も集結。台湾の英雄に対する注目度の高さがうかがいしれた。
【「余剰人員」の選手が出てくる】
会見で陽は「昨日は寝られなかった。それぐらいに、すごく興奮している。プレッシャーはあるけど、僕はまだ成長段階だと思っている。打っても、守っても、走っても1つ1つチームのために頑張りたいし、そういう自分の数字よりもとにかく優勝に貢献したい」と目を輝かせながらコメント。その横で「三拍子そろった主軸として、きっと巨人の力になってくれると思う」と白い歯を見せながら語ったのは来季で就任2年目を迎える高橋由伸監督だった。しかし心なしか、その笑顔が多少引きつっているように見えたのは筆者だけではなかったと思う。
今オフの巨人は他球団やプロ野球関係者から「乱獲」と揶揄(やゆ)されるぐらいに新たな戦力を次々と加え続けている。FA宣言した前横浜DeNAベイスターズの山口俊投手と前福岡ソフトバンクホークスの森福允彦投手をダブル獲得。さらには大田泰示外野手と公文克彦投手を交換要員としたトレードで北海道日本ハムファイターズから今季の先発ローテーションに加わっていた吉川光夫投手、成長株の石川慎吾外野手も巨人の一員となった。
まだ続く。小山雄輝投手を放出し、東北楽天ゴールデンイーグルスからトレードで長打力のある左打者・柿沢貴裕内野手を獲得。さらに、デトロイト・タイガースからFAとなっていた元楽天のケーシー・マギー内野手、今季マリナーズなどでセットアッパーとして活躍した現役メジャーリーガーのアルキメデス・カミネロ投手との来季契約も基本合意に達した。
一度にFA選手を3人も獲得したのは史上最多で、ざっと換算しただけでも今オフの戦力補強は実に30億円を超えると見られている。
●巨人の巨大補強は諸刃の剣
しかもまだ補強は打ち止めになっていないとの情報もある。編成作業に直接タッチしていない巨人の球団関係者が「こんな金額を費やしてウチは本当に大丈夫なのだろうか」とボヤいていたが、それも無理はないだろう。しかし裏を返せば、それだけの巨額を投入するほど巨人は来季のV奪回に心血を注いでいるというわけである。常勝軍団が2年連続で優勝から遠ざかっているばかりか、今季2位とはいえリーグVの広島東洋カープから実に17.5ゲームもの屈辱的な大差を付けられてしまったのだ。
いまだ球団で実質的なかじ取り役となっている読売新聞グループ本社主筆・渡邉恒雄氏と“ナンバー2”である同グループ本社社長・山口寿一氏が、この巨人の現状に強い危機感を覚え、今オフの巨大補強にゴーサインを出したのである。無論、その背景には両者の抱く「(現監督の)由伸を守れ」という共通の思いがあるからに他ならない。
さて、ここで話を戻そう。これだけのカネを動かして戦力補強をあてがってもらったのだから高橋監督には来季当然ながらV奪回が絶対条件となる。確かに戦力の充実化はタクトを振る側としてこれ以上ないプラス材料だ。しかしながら冷静に見ると巨大補強は諸刃の剣でもある。特に今オフの巨人はとにかく片っ端からストーブリーグで市場に出た選手をかき集めたような印象が強い。そうなると明らかに同じポジションで被ってしまい「余剰人員」となる選手も出てくるだけに現場としては、やり繰りが非常に難しくなってくる。
チームの長である高橋監督にはV奪回が厳命されるだけでなく、そういう弾き出された選手たちの心をいかにケアできるかというところも求められてくるだろう。先の陽の会見で高橋監督の笑顔が引きつったように見えたのは本人もこの点をプレッシャーとして感じ、自覚していたからではなかったか。
●自分は“飼い殺し”にされてしまうかも
指揮官が選手の心をつかみ切れるか否かによって、来季の巨人は勝負の行方が大きく分かれるように思われる。もしそれが「否」となれば、由々しき事態を招く危険性も高い。なぜならば巨大補強によって余剰人員となった選手はチームの不満分子となってしまうことも十分にあり得るからだ。
超豪華なメンツがそろった今オフの補強メンバーが期待通りの活躍を見せれば、普通に考えても現有戦力から何人かがツマ弾きにされる。その中にはもともと生え抜きとして巨人のユニホームをずっと着続けていたベテラン選手や途中移籍組の中堅クラス、そして今後の躍進を見込まれていた若い選手たちもいるだろう。
「そういう選手たちは今オフの巨大補強を心の底から面白くないと感じている。実際に将来の有望株と目されている、ある若手は周囲に『こんな状況ならいくら頑張っても出る幕がない。同じリーグがダメならば、どこかパ・リーグの球団に自分を売り込んでもらえないでしょうか』と漏らして真剣に相談しているほど。
ジャイアンツではそういうトレード志願が“タブー”であることが分かっていても、思わず口にしてしまうほど余剰人員となりそうな若手たちは危機感を募らせている。つまり、このままだと自分は“飼い殺し”にされてしまうのではないかと思っているのです」(球団関係者)
不安を募らせているのは若手選手だけではない。ベテランも「何でこんなに獲るんだ?」と首をかしげている。前出の関係者はこう続けた。
「先日、阿部(慎之助捕手)が東京都内のイベントで自軍の巨大補強について『読売ファイターズみたいになってますね』と言ったでしょう。言うまでもなく日本ハムの選手を巨人が多数獲得したからこそ揶揄して言ったわけで、しかも『この補強があるから主力がバシバシ給料、落とされたのかなと』まで嫌味を込めながら発言した。
さすがにチームの精神的支柱である阿部が不満分子になるとは考えたくないが、彼が今のベテラン主力勢たちの不満を代弁したのは事実。来季は首脳陣が接し方をおろそかにしたり間違えたりしてしまうと、チーム内から弾かれたベテラン選手たちのブーイングが爆発してしまうかもしれないことは今から頭に入れていかなければいけない」
●巨大補強で戦力をかき集めた巨人に注目
巨人ファンの中には「今の選手がダメだから、フロントが新しい戦力を獲るのは当然のことだ」と指摘する意見も当然あるだろう。特に巨人は他球団以上に「常勝」が求められるチームであり、勝てなければ補強が必要不可欠なのは分かる。だが適材適所を見誤り、それが過度になってしまうと逆の結果になる危険性があることも忘れてはいけない。
かつて巨人は2003年にヤンキースへ移籍した松井秀喜の代役長距離砲としてロベルト・ぺタジーニを獲得したものの清原和博とポジションが被って併用した挙句、うまく機能せずに数年間に渡ってV逸が続き暗黒時代に陥った苦い経験がある。さらに2004年には小久保裕紀やタフィー・ローズまで獲得し、巨大補強によって超重量打線を形成したがチーム成績にはまるで反映されなかった。
「2004年はコミュニケーション能力が欠けていたホリさん(堀内恒夫氏)が監督だった。あの時も清原やローズといった不満分子がチーム内に生まれ、それをホリさんがコントロールできずにぐちゃぐちゃになって選手たちがまとまらず空中分解につながってしまった。巨大補強のタイミングで必要なのはカリスマ性があり、強い意思を持った指揮官が必要だ。
残念ながら由伸(高橋監督)にはそれがあるかと問われれば『ある』とはお世辞にも言えない。就任1年目の彼の采配や言動を見れば、いちいち説明するまでもなく一目瞭然でしょう。来シーズン、行く末が非常に心配です」(古参の巨人球団フロント)
果たして高橋監督は巨大戦力をしっかりと束ね、コントロールすることができるのだろうか。そのマネジメント能力にV奪回のすべてがかかっていると評しても過言ではない。有能なビジネスパーソンたちを数多く抱える企業トップの人たちにも、巨大補強で戦力をかき集めた巨人の2017年シーズンの戦いぶりをぜひ注目してほしい。
【「余剰人員」の選手が出てくる】
会見で陽は「昨日は寝られなかった。それぐらいに、すごく興奮している。プレッシャーはあるけど、僕はまだ成長段階だと思っている。打っても、守っても、走っても1つ1つチームのために頑張りたいし、そういう自分の数字よりもとにかく優勝に貢献したい」と目を輝かせながらコメント。その横で「三拍子そろった主軸として、きっと巨人の力になってくれると思う」と白い歯を見せながら語ったのは来季で就任2年目を迎える高橋由伸監督だった。しかし心なしか、その笑顔が多少引きつっているように見えたのは筆者だけではなかったと思う。
今オフの巨人は他球団やプロ野球関係者から「乱獲」と揶揄(やゆ)されるぐらいに新たな戦力を次々と加え続けている。FA宣言した前横浜DeNAベイスターズの山口俊投手と前福岡ソフトバンクホークスの森福允彦投手をダブル獲得。さらには大田泰示外野手と公文克彦投手を交換要員としたトレードで北海道日本ハムファイターズから今季の先発ローテーションに加わっていた吉川光夫投手、成長株の石川慎吾外野手も巨人の一員となった。
まだ続く。小山雄輝投手を放出し、東北楽天ゴールデンイーグルスからトレードで長打力のある左打者・柿沢貴裕内野手を獲得。さらに、デトロイト・タイガースからFAとなっていた元楽天のケーシー・マギー内野手、今季マリナーズなどでセットアッパーとして活躍した現役メジャーリーガーのアルキメデス・カミネロ投手との来季契約も基本合意に達した。
一度にFA選手を3人も獲得したのは史上最多で、ざっと換算しただけでも今オフの戦力補強は実に30億円を超えると見られている。
●巨人の巨大補強は諸刃の剣
しかもまだ補強は打ち止めになっていないとの情報もある。編成作業に直接タッチしていない巨人の球団関係者が「こんな金額を費やしてウチは本当に大丈夫なのだろうか」とボヤいていたが、それも無理はないだろう。しかし裏を返せば、それだけの巨額を投入するほど巨人は来季のV奪回に心血を注いでいるというわけである。常勝軍団が2年連続で優勝から遠ざかっているばかりか、今季2位とはいえリーグVの広島東洋カープから実に17.5ゲームもの屈辱的な大差を付けられてしまったのだ。
いまだ球団で実質的なかじ取り役となっている読売新聞グループ本社主筆・渡邉恒雄氏と“ナンバー2”である同グループ本社社長・山口寿一氏が、この巨人の現状に強い危機感を覚え、今オフの巨大補強にゴーサインを出したのである。無論、その背景には両者の抱く「(現監督の)由伸を守れ」という共通の思いがあるからに他ならない。
さて、ここで話を戻そう。これだけのカネを動かして戦力補強をあてがってもらったのだから高橋監督には来季当然ながらV奪回が絶対条件となる。確かに戦力の充実化はタクトを振る側としてこれ以上ないプラス材料だ。しかしながら冷静に見ると巨大補強は諸刃の剣でもある。特に今オフの巨人はとにかく片っ端からストーブリーグで市場に出た選手をかき集めたような印象が強い。そうなると明らかに同じポジションで被ってしまい「余剰人員」となる選手も出てくるだけに現場としては、やり繰りが非常に難しくなってくる。
チームの長である高橋監督にはV奪回が厳命されるだけでなく、そういう弾き出された選手たちの心をいかにケアできるかというところも求められてくるだろう。先の陽の会見で高橋監督の笑顔が引きつったように見えたのは本人もこの点をプレッシャーとして感じ、自覚していたからではなかったか。
●自分は“飼い殺し”にされてしまうかも
指揮官が選手の心をつかみ切れるか否かによって、来季の巨人は勝負の行方が大きく分かれるように思われる。もしそれが「否」となれば、由々しき事態を招く危険性も高い。なぜならば巨大補強によって余剰人員となった選手はチームの不満分子となってしまうことも十分にあり得るからだ。
超豪華なメンツがそろった今オフの補強メンバーが期待通りの活躍を見せれば、普通に考えても現有戦力から何人かがツマ弾きにされる。その中にはもともと生え抜きとして巨人のユニホームをずっと着続けていたベテラン選手や途中移籍組の中堅クラス、そして今後の躍進を見込まれていた若い選手たちもいるだろう。
「そういう選手たちは今オフの巨大補強を心の底から面白くないと感じている。実際に将来の有望株と目されている、ある若手は周囲に『こんな状況ならいくら頑張っても出る幕がない。同じリーグがダメならば、どこかパ・リーグの球団に自分を売り込んでもらえないでしょうか』と漏らして真剣に相談しているほど。
ジャイアンツではそういうトレード志願が“タブー”であることが分かっていても、思わず口にしてしまうほど余剰人員となりそうな若手たちは危機感を募らせている。つまり、このままだと自分は“飼い殺し”にされてしまうのではないかと思っているのです」(球団関係者)
不安を募らせているのは若手選手だけではない。ベテランも「何でこんなに獲るんだ?」と首をかしげている。前出の関係者はこう続けた。
「先日、阿部(慎之助捕手)が東京都内のイベントで自軍の巨大補強について『読売ファイターズみたいになってますね』と言ったでしょう。言うまでもなく日本ハムの選手を巨人が多数獲得したからこそ揶揄して言ったわけで、しかも『この補強があるから主力がバシバシ給料、落とされたのかなと』まで嫌味を込めながら発言した。
さすがにチームの精神的支柱である阿部が不満分子になるとは考えたくないが、彼が今のベテラン主力勢たちの不満を代弁したのは事実。来季は首脳陣が接し方をおろそかにしたり間違えたりしてしまうと、チーム内から弾かれたベテラン選手たちのブーイングが爆発してしまうかもしれないことは今から頭に入れていかなければいけない」
●巨大補強で戦力をかき集めた巨人に注目
巨人ファンの中には「今の選手がダメだから、フロントが新しい戦力を獲るのは当然のことだ」と指摘する意見も当然あるだろう。特に巨人は他球団以上に「常勝」が求められるチームであり、勝てなければ補強が必要不可欠なのは分かる。だが適材適所を見誤り、それが過度になってしまうと逆の結果になる危険性があることも忘れてはいけない。
かつて巨人は2003年にヤンキースへ移籍した松井秀喜の代役長距離砲としてロベルト・ぺタジーニを獲得したものの清原和博とポジションが被って併用した挙句、うまく機能せずに数年間に渡ってV逸が続き暗黒時代に陥った苦い経験がある。さらに2004年には小久保裕紀やタフィー・ローズまで獲得し、巨大補強によって超重量打線を形成したがチーム成績にはまるで反映されなかった。
「2004年はコミュニケーション能力が欠けていたホリさん(堀内恒夫氏)が監督だった。あの時も清原やローズといった不満分子がチーム内に生まれ、それをホリさんがコントロールできずにぐちゃぐちゃになって選手たちがまとまらず空中分解につながってしまった。巨大補強のタイミングで必要なのはカリスマ性があり、強い意思を持った指揮官が必要だ。
残念ながら由伸(高橋監督)にはそれがあるかと問われれば『ある』とはお世辞にも言えない。就任1年目の彼の采配や言動を見れば、いちいち説明するまでもなく一目瞭然でしょう。来シーズン、行く末が非常に心配です」(古参の巨人球団フロント)
果たして高橋監督は巨大戦力をしっかりと束ね、コントロールすることができるのだろうか。そのマネジメント能力にV奪回のすべてがかかっていると評しても過言ではない。有能なビジネスパーソンたちを数多く抱える企業トップの人たちにも、巨大補強で戦力をかき集めた巨人の2017年シーズンの戦いぶりをぜひ注目してほしい。