8月末、ナゴヤドームで「中日ドラゴンズvs.広島カープ」の試合を観た。試合は延長戦で爆発したカープの勝ち。
びっくりしてしまった。「野球ってこんなに見せ場があるのか」と。
とにかくまぁ、カープ打線の元気なこと! 飛んでいく打球まで覇気がある。巨人の試合と見比べてしまうのはよくないことだとわかっているのだけど、広島の試合は魔法にかけられたように面白かった。うっとり。
私は打線に惚れ惚れしていたのですが、一緒に観戦した横浜ファンは「あー、広島の内野陣は何であんなに守備がうまいのか」と守備にうっとりしていた。お互い、隣の芝生は青く見えすぎた。
誰が観てもきっちりと魅了される今年の広島カープ。ありていに言えば、チケット代の損をさせない。勝利や優勝という結果を言っているのではない。「試合中」に元をとれるからエライと思った。観てて楽しいんだもの。
私の後ろの席にはカープ女子がいた。東京から名古屋に駆けつけたという。鈴木誠也のファンなのだろう、試合中ずっと「セイヤ、セイヤ!」とまさにお祭りのようだった。そのカープ女子は、25年前の優勝時はおそらく30代だったと思われる。今年まで長かっただろう。でもあの様子だと「途中」もじゅうぶん楽しんだ25年だったかも。おばちゃん、優勝おめでとう。
前回の執筆時点では猛追していた巨人だが……。
では高橋由伸の話をしよう。2016年の高橋由伸。
先月このコラムを書いた時期は巨人が広島に猛迫していたとき。「最大11あった首位・広島とのゲーム差はわずか2週間で半減した。8月14日終了時点では6.5ゲーム差」という頃だった。
そして、《あと1カ月後、2カ月後、高橋由伸はどんなドキュメントを見せてくれるのか、まったく予想がつかない。一気の上昇か、はたまた息切れか。このルーキー監督の今の状況は「ある程度の読み」すら誰もできない。すごい、だから面白い。》と書いた。
チケット代の分だけ観客を楽しませたのだろうか?
一気の上昇か、はたまた息切れか。……見事に後者でした。ズルズルという音が聞こえてきそうな後退っぷり。
ここで巨人の弱さ、覇気の無さについて「喝!」を入れるのもいいいんだけど、問うとしたらひとつだけ。「勝ち負けは別として、チケット代の分は観客を楽しませた?」ということ。試合中にすでに元をとらせる「興行」をした自負はあるのかないのか。シーズンが終わったらその点もふりかえってほしい。選手だけでなく球団の人も。
勝ち負けだけでなく、未来の夢もチケットで見たいというなら、高橋由伸は若手にも大きなチャンスを与えた2016年だった。
野手では岡本、重信、投手では桜井、平良、長谷川。二軍から昇格して即先発の平良、長谷川の試合は夢があったなぁ。しかし活発な姿は一軍のグランドでは見せることはできなかった。その上の大田、中井、橋本到クラスのじれったさときたらもう芸の域。
「巨人は動かない」「坂本を抑えれば何とかなる」。
今は過渡期なのだろう。
そんな微妙な時期に監督を任されても、慌てずに見えた高橋由伸に頼もしさを感じたが、「動かない由伸」には異論も出た。
《巨人・高橋由伸監督といえば、現役時代は攻守にわたる思い切ったプレーでファンを魅了した。それなのに指揮官として、その思い切りのよさがまるで見えない。》(大下剛史・東スポ9月5日)
「スポーツ報知」の今シーズンの検証記事では、5月末頃に他球団の選手、スコアラーから聞こえてきた声を紹介している。
「しかし巨人は動かないね。エンドランをやられた記憶がない」
[坂本を抑えれば何とかなる]
派手に動かないのは「個の力」を信じたから。
そのうえで、記事は高橋由伸が動かない理由も書いている。
《就任1年目。由伸監督は初体験となる采配について「実際に俺らが何かして勝つ試合は正直、少ないと思っている。選手一人一人がいい成績を残すことが大事」と語っていた。主力であろうとバントやエンドランを使った原前監督の「動く野球」に対し、由伸監督は「個の力」を優先。これを意気に感じた選手がほとんどだった。》(9月13日)
高橋由伸が派手に動かない理由は「個の力」を信じたからだ。言ってみれば大人の付き合いだ。その姿勢を意気に感じたというなら応えてみせるのが大人の礼儀だが、なかなかそうはいかなかった。阿部慎之助の開幕からの離脱、外国人選手たちは不振に陥ったり、様子見としか思えない「調整」に時間を費やした。由伸監督は本当は動きたくても動けなかったのかもしれない。
最下位だったけど、長嶋元年はドラマチックだった。
同じ1年目でもあの人は激しく動いた。
天才バッターが引退後に即監督就任で青年監督。似た状況とあって、高橋由伸はあの長嶋茂雄の監督1年目と重ねられた。球団も自らそうした映像をつくってPRした。
長嶋茂雄の1年目は最下位。どこまでも劇的であった。幼かった私は第一次の長嶋監督のスタート年は記憶が無いが、後から調べてみるとテレビの視聴率はむしろ良かったという。青年監督ならではの荒削りさと破天荒さが、前年までの川上野球と比べて新鮮だったのだろう。そして現役時代は大天才だった人が、監督となって苦悩する姿にも人々は球場やテレビで見入ったのだろう。長嶋元年はドラマチックだったのである。
監督1年目の高橋由伸に私がひそかに期待したのも同じであった。現役時代に同じく天才と呼ばれた高橋由伸が、監督業では思い悩む。人間臭さをまき散らす。想定外のそんな姿を想像したら、失礼ながらワクワクした。
しかし、由伸監督は私の予想をやすやすと超えてきた。個の力を優先し、どんと構えた。静かだった。
今年「球筋」を見きわめた由伸監督は、2年目の来シーズンはがらりと変わるのか。それともクールさに磨きがかかるのか。注目だ。
空気を読まない由伸ぶりをもしCSで発揮したら……。
9月10日、東京ドームで広島に優勝を許すことになった由伸巨人。今後“強く・楽しい”チームの構築はできるのだろうか。
空気を読まない由伸ぶりをもしCSで発揮したら……。
そして今年はまだクライマックスシリーズがある。由伸はどんな結果を残すのか。ファーストステージであっさり敗れることも予想できるし、その逆もあり得る。読めない。
現役時代にさーっと打席に入ってきて、あっさりホームランを打つのは高橋由伸の必殺パターンだった。そういえば今年はまだそんなクールなキラーぶりを「由伸」巨人は見せていない。
もし、もしですよ、クライマックスシリーズでそんなことをあっさりやってしまったら……。
空気を読まない由伸が今年はここで炸裂したらどうなっちゃうんだろう。そうなっても由伸は涼しい顔をしてるはず。
見たいような気もするし、でも確実に世間様から怒られそうな気もするし。どうなるんだろう10月。
ああ、まだまだ私は「2016年の高橋由伸」がわかりません。
びっくりしてしまった。「野球ってこんなに見せ場があるのか」と。
とにかくまぁ、カープ打線の元気なこと! 飛んでいく打球まで覇気がある。巨人の試合と見比べてしまうのはよくないことだとわかっているのだけど、広島の試合は魔法にかけられたように面白かった。うっとり。
私は打線に惚れ惚れしていたのですが、一緒に観戦した横浜ファンは「あー、広島の内野陣は何であんなに守備がうまいのか」と守備にうっとりしていた。お互い、隣の芝生は青く見えすぎた。
誰が観てもきっちりと魅了される今年の広島カープ。ありていに言えば、チケット代の損をさせない。勝利や優勝という結果を言っているのではない。「試合中」に元をとれるからエライと思った。観てて楽しいんだもの。
私の後ろの席にはカープ女子がいた。東京から名古屋に駆けつけたという。鈴木誠也のファンなのだろう、試合中ずっと「セイヤ、セイヤ!」とまさにお祭りのようだった。そのカープ女子は、25年前の優勝時はおそらく30代だったと思われる。今年まで長かっただろう。でもあの様子だと「途中」もじゅうぶん楽しんだ25年だったかも。おばちゃん、優勝おめでとう。
前回の執筆時点では猛追していた巨人だが……。
では高橋由伸の話をしよう。2016年の高橋由伸。
先月このコラムを書いた時期は巨人が広島に猛迫していたとき。「最大11あった首位・広島とのゲーム差はわずか2週間で半減した。8月14日終了時点では6.5ゲーム差」という頃だった。
そして、《あと1カ月後、2カ月後、高橋由伸はどんなドキュメントを見せてくれるのか、まったく予想がつかない。一気の上昇か、はたまた息切れか。このルーキー監督の今の状況は「ある程度の読み」すら誰もできない。すごい、だから面白い。》と書いた。
チケット代の分だけ観客を楽しませたのだろうか?
一気の上昇か、はたまた息切れか。……見事に後者でした。ズルズルという音が聞こえてきそうな後退っぷり。
ここで巨人の弱さ、覇気の無さについて「喝!」を入れるのもいいいんだけど、問うとしたらひとつだけ。「勝ち負けは別として、チケット代の分は観客を楽しませた?」ということ。試合中にすでに元をとらせる「興行」をした自負はあるのかないのか。シーズンが終わったらその点もふりかえってほしい。選手だけでなく球団の人も。
勝ち負けだけでなく、未来の夢もチケットで見たいというなら、高橋由伸は若手にも大きなチャンスを与えた2016年だった。
野手では岡本、重信、投手では桜井、平良、長谷川。二軍から昇格して即先発の平良、長谷川の試合は夢があったなぁ。しかし活発な姿は一軍のグランドでは見せることはできなかった。その上の大田、中井、橋本到クラスのじれったさときたらもう芸の域。
「巨人は動かない」「坂本を抑えれば何とかなる」。
今は過渡期なのだろう。
そんな微妙な時期に監督を任されても、慌てずに見えた高橋由伸に頼もしさを感じたが、「動かない由伸」には異論も出た。
《巨人・高橋由伸監督といえば、現役時代は攻守にわたる思い切ったプレーでファンを魅了した。それなのに指揮官として、その思い切りのよさがまるで見えない。》(大下剛史・東スポ9月5日)
「スポーツ報知」の今シーズンの検証記事では、5月末頃に他球団の選手、スコアラーから聞こえてきた声を紹介している。
「しかし巨人は動かないね。エンドランをやられた記憶がない」
[坂本を抑えれば何とかなる]
派手に動かないのは「個の力」を信じたから。
そのうえで、記事は高橋由伸が動かない理由も書いている。
《就任1年目。由伸監督は初体験となる采配について「実際に俺らが何かして勝つ試合は正直、少ないと思っている。選手一人一人がいい成績を残すことが大事」と語っていた。主力であろうとバントやエンドランを使った原前監督の「動く野球」に対し、由伸監督は「個の力」を優先。これを意気に感じた選手がほとんどだった。》(9月13日)
高橋由伸が派手に動かない理由は「個の力」を信じたからだ。言ってみれば大人の付き合いだ。その姿勢を意気に感じたというなら応えてみせるのが大人の礼儀だが、なかなかそうはいかなかった。阿部慎之助の開幕からの離脱、外国人選手たちは不振に陥ったり、様子見としか思えない「調整」に時間を費やした。由伸監督は本当は動きたくても動けなかったのかもしれない。
最下位だったけど、長嶋元年はドラマチックだった。
同じ1年目でもあの人は激しく動いた。
天才バッターが引退後に即監督就任で青年監督。似た状況とあって、高橋由伸はあの長嶋茂雄の監督1年目と重ねられた。球団も自らそうした映像をつくってPRした。
長嶋茂雄の1年目は最下位。どこまでも劇的であった。幼かった私は第一次の長嶋監督のスタート年は記憶が無いが、後から調べてみるとテレビの視聴率はむしろ良かったという。青年監督ならではの荒削りさと破天荒さが、前年までの川上野球と比べて新鮮だったのだろう。そして現役時代は大天才だった人が、監督となって苦悩する姿にも人々は球場やテレビで見入ったのだろう。長嶋元年はドラマチックだったのである。
監督1年目の高橋由伸に私がひそかに期待したのも同じであった。現役時代に同じく天才と呼ばれた高橋由伸が、監督業では思い悩む。人間臭さをまき散らす。想定外のそんな姿を想像したら、失礼ながらワクワクした。
しかし、由伸監督は私の予想をやすやすと超えてきた。個の力を優先し、どんと構えた。静かだった。
今年「球筋」を見きわめた由伸監督は、2年目の来シーズンはがらりと変わるのか。それともクールさに磨きがかかるのか。注目だ。
空気を読まない由伸ぶりをもしCSで発揮したら……。
9月10日、東京ドームで広島に優勝を許すことになった由伸巨人。今後“強く・楽しい”チームの構築はできるのだろうか。
空気を読まない由伸ぶりをもしCSで発揮したら……。
そして今年はまだクライマックスシリーズがある。由伸はどんな結果を残すのか。ファーストステージであっさり敗れることも予想できるし、その逆もあり得る。読めない。
現役時代にさーっと打席に入ってきて、あっさりホームランを打つのは高橋由伸の必殺パターンだった。そういえば今年はまだそんなクールなキラーぶりを「由伸」巨人は見せていない。
もし、もしですよ、クライマックスシリーズでそんなことをあっさりやってしまったら……。
空気を読まない由伸が今年はここで炸裂したらどうなっちゃうんだろう。そうなっても由伸は涼しい顔をしてるはず。
見たいような気もするし、でも確実に世間様から怒られそうな気もするし。どうなるんだろう10月。
ああ、まだまだ私は「2016年の高橋由伸」がわかりません。