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由伸2世と呼ばれた男 悪夢ドラフト「その後」

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【気になるあの人を追跡調査!野球探偵の備忘録(25)】昨秋のドラフトでは上位指名確実と言われながら、まさかの指名漏れとなった慶大・谷田成吾。現在は社会人の名門・JX―ENEOSで2年後のプロ入りを目指し、練習に励んでいる。東京六大学リーグ史上12人目の通算15本塁打を放ち、その甘いマスクから「高橋由伸2世」とも呼ばれたスラッガーが、悪夢のドラフトから立ち直った軌跡を追った。

「素直にうれしかった。憧れの選手の2世と言っていただいて。でも、程遠いということは自分が一番よくわかっていた。僕は全然、ヨシノブ2世じゃない」

 史上12人目のリーグ通算15本塁打、中高大とすべての世代で日本代表。その輝かしい実績から、新聞紙上では「ドラフトの目玉」「上位指名の最有力候補」と盛んに報じられたが、12球団から名前が挙がることはついになかった。

「これまでの野球人生で一番の挫折です」と語る谷田は、運命の一日をこう振り返る。

「同期が飲みに誘ってくれたんですよ。もちろん(チームメートで指名のあった)山本(巨人)や横尾(日本ハム)のお祝いとは別に、仲のよかった10人ぐらいが僕のために開いてくれた。ドラフトが終わったのが(午後)10時過ぎで、次の日も練習があったんですが、けっこう遅くまで飲んでしまって。言えないような話をたくさんしました(笑い)」

 すでにリーグ優勝の可能性は消滅していたとはいえ、間近には伝統の早慶戦。すぐに気持ちを切り替えたが、翌日からはさらに取材が殺到した。

「上位縛りがあったのでは?」

「左打者の飽和状態が理由」

「本塁打は東大戦での荒稼ぎ」

 手のひらを返したかのように、ネットには指名漏れの原因を解説する記事や書き込みがあふれた。

 注目を集めるがゆえ、過剰な報道に翻弄されたドラフト。だが、失意の谷田が救われたのもまた、取材を通してだった。

「ドラフトに落ちて取材に来てもらえない選手よりも『なんで?』と思ってもらえる選手でありたい。そう思えるようになりました。もちろんしんどいこともありましたが、ありがたいな、うれしいなという気持ちのほうが大きかった」

 社会人20社以上のオファーの中から、ドラフト当日の夜に連絡をくれたJX―ENEOSに就職。新人ながらすでに4番に座り、公式戦2本塁打を記録している。6月1日の予選に敗れ、今年目標としていた都市対抗野球出場と若獅子賞受賞はなくなったが「目標はすぐ切り替えて。チームの勝ちも、個人タイトルも、取れるものは全部取りたい。それがプロにつながっていくと思ってるので」と意気込む。背番号は高橋由伸と自身が大学時代につけていたものと変わらぬ「24」だ。

「プライドはあります。それは今回(のドラフトで)も折れなかった。今までの自分じゃダメだとわかったけど、まだまだプロに行って活躍できないとは思っていない。自分が大きく変わる2年間にしたい」

 谷田が直面したまさかのドラフト指名漏れから9か月。折れることのないそのプライドは、削られてなお鋭くとがる。

 ☆やだ・せいご 1993年5月25日生まれ、埼玉県川口市出身。木曽呂小1年のとき、川口リトルで野球を始める。中1夏に参加したインターナショナルで世界準V。中2からは東練馬シニアに所属、4番投手兼外野手として全国ベスト4に輝く。神奈川・慶応義塾高では1年春から4番に座り、3年春に県大会優勝、高校通算本塁打は76。3年夏には日本代表としてアジアAAA選手権優勝、ベストナインに選出される。慶大進学後は1年春からリーグ戦出場、リーグ史上12人目となる通算15本塁打。3年夏のハーレム、4年夏のユニバーシアードで日本代表に選出。大学卒業後は社会人野球のJX―ENEOSへ。183センチ、93キロ。右投げ左打ち。

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