阪神の競争力を長らく支えてきた鳥谷敬の不振が深刻だ。打撃、守備ともに振るわず、苦しいシーズンを送っている。
今季新たに就任した金本知憲監督は、鳥谷にチームの変革の旗印となることを期待し、新たな要求をしたようだ。それは主には長打力の向上に関するもので、「20本塁打」という目標が聞こえてくることもあった。
鳥谷がそれに応えようとした様子は、データによく表れている。その結果を示す前に、前提を整理しておきたい。
まず、鳥谷はスイングすることが非常に少ない打者だ。昨季の対戦投手の全投球に対するスイング率38.0%は、規定打席に到達したNPB全打者で3番目の低さ。またスイングする頻度が低いだけでなく、優れた選球眼も持つ。ボールゾーンの投球をスイングする割合は低く、昨季の18.0%は規定打席に到達したNPB全打者で最も低い数字。鳥谷の高い出塁能力、四球獲得能力は、打席での適切なアプローチによるところが大きい。しかし、長打力を求めた今季、その個性的なアプローチに変化が見られるのだ。
↑鳥谷敬[阪神]のスイング率
まず目に付くのはスイングの増加だ。投球全体に対するスイング率が昨季の38.0%から40.5%へと2.5ポイント上昇した。さらに、ストライクゾーンに対するスイングだけに絞ると、昨季の62.1%から71.7%へと9.6ポイントも上がっている。
おそらく狙い球をよく絞り、打ちやすい球を待って打つスタイルから、広く待ちストライクゾーン内の投球であれば積極的に手を出していくスタイルに変化させたのだろう。
なお、ボールゾーンの投球に対するスイング率は例年通りの低い数字を維持しており、飽くまでストライクゾーンに対してのみスイングを増やしている。素晴らしい選球眼と調整能力である。
さらに詳しく、ストライクカウント別にアプローチの変化を見ると、0ストライク、1ストライク時にゾーン内の投球をスイングした割合が、どちらも昨季から10ポイント以上上昇している。浅いカウントのときは、例年より積極的にスイングし、金本監督が求めるスタイルに応えようとしているようである。
長打志向を強めた結果、自らのヒットゾーンを失ってしまう結果に
長打を求める意識は、生まれる打球にも影響を及ぼしているようだ。まず“引っ張り”の傾向が強まっている。「一塁(ライト)線からフェアグラウンド側に30°」のゾーンに収まった打球は、2014年が全体の29.6%、2015年が27.2%と推移してきたが、今季は34.0%へと上昇。センター、レフト方向に飛ぶ打球を減らしている。例年より引っ張りにかかっており、強い打球を打とうという意識が見てとれる。
↑では、その引っ張りは効果を生んでいるのか。鳥谷が打ったフライとライナーのうち滞空時間(バットに当たってから地面に落ちるか、グラブに収まるまでの時間)が、安打になりやすい「3秒以内」に収まったものをフィールド上にプロットしたのが次のイラストだ。高く上がった易々と捕れるフライ以外の打球が、ヒットになっているかどうか見るためのものとなる。
センターからレフト方向への打球が減少していることがわかる。センターから左へ、やや低めの弾道で逆らわずに打球を飛ばしヒットを打つ鳥谷の姿は、ファンにはお馴染みのものではないかと思う。だが、それが今季減っているのである。
昨季の646打席で、「滞空時間3秒以内」「センターからレフト方向」の打球は52本あり、39本がヒットになっていた(.750)。今季は359打席で、打球は14本しかない。ヒットは10本である(.714)。
このほかにも、外野へ放った全フライのアウト率が、昨季の74.4%から82.8%へと大幅に悪化するなど、長打量産を目指したモデルチェンジが、鳥谷のヒットゾーンを失わせていることを示唆する数字が出ている。
今、阪神が鳥谷に求めるべきものは何なのか?
今季の鳥谷は本塁打数が既に昨季に並ぶなど、ハイペースで本塁打を放っている。しかし打撃成績全体の落ち込みを見ても、このモデルチェンジが成功しているとは言いがたい。現状はデメリットのほうが大きく出ている。
35歳のベテランになりながら、チームの要求に応えるべくモデルチェンジを試みる姿勢は賞賛されるべきだろう。しかし、自らの特性を生かし作りあげられたスタイルを変えることは簡単ではなかった。もう5年間2ケタ本塁打を記録していなかった鳥谷が、突如20本塁打を目指すという方針は、様々な歪みをもたらしている可能性が高い。
どんな球をスイングしまた見逃すかといったアプローチや、どんな方向にどんな打球を打つかといった特性は、打者固有のものであることが多く、簡単に調整が効かないことも多い。成績を伸ばそうと、そうした部分に変化を加えた結果、自らの強みを消してしまうというのはよくあることだ。
鳥谷はスイングの傾向などを見る限り、アプローチについては調整が上手いタイプの打者ではあるだろう。しかし、積極的にストライクを振り、さらには引っ張っていく打撃スタイルでは、今のところ新たなヒットゾーンをつくりだせていない。
首脳陣は、キャリアの終わりが近づく選手については、何を失い何を残しているかを的確に把握し、最も効率よく貢献させるための策を考える必要がある。しかし残念ながら、今の鳥谷については、求めるべきものを求められていないように映ってならない。
今季新たに就任した金本知憲監督は、鳥谷にチームの変革の旗印となることを期待し、新たな要求をしたようだ。それは主には長打力の向上に関するもので、「20本塁打」という目標が聞こえてくることもあった。
鳥谷がそれに応えようとした様子は、データによく表れている。その結果を示す前に、前提を整理しておきたい。
まず、鳥谷はスイングすることが非常に少ない打者だ。昨季の対戦投手の全投球に対するスイング率38.0%は、規定打席に到達したNPB全打者で3番目の低さ。またスイングする頻度が低いだけでなく、優れた選球眼も持つ。ボールゾーンの投球をスイングする割合は低く、昨季の18.0%は規定打席に到達したNPB全打者で最も低い数字。鳥谷の高い出塁能力、四球獲得能力は、打席での適切なアプローチによるところが大きい。しかし、長打力を求めた今季、その個性的なアプローチに変化が見られるのだ。
↑鳥谷敬[阪神]のスイング率
まず目に付くのはスイングの増加だ。投球全体に対するスイング率が昨季の38.0%から40.5%へと2.5ポイント上昇した。さらに、ストライクゾーンに対するスイングだけに絞ると、昨季の62.1%から71.7%へと9.6ポイントも上がっている。
おそらく狙い球をよく絞り、打ちやすい球を待って打つスタイルから、広く待ちストライクゾーン内の投球であれば積極的に手を出していくスタイルに変化させたのだろう。
なお、ボールゾーンの投球に対するスイング率は例年通りの低い数字を維持しており、飽くまでストライクゾーンに対してのみスイングを増やしている。素晴らしい選球眼と調整能力である。
さらに詳しく、ストライクカウント別にアプローチの変化を見ると、0ストライク、1ストライク時にゾーン内の投球をスイングした割合が、どちらも昨季から10ポイント以上上昇している。浅いカウントのときは、例年より積極的にスイングし、金本監督が求めるスタイルに応えようとしているようである。
長打志向を強めた結果、自らのヒットゾーンを失ってしまう結果に
長打を求める意識は、生まれる打球にも影響を及ぼしているようだ。まず“引っ張り”の傾向が強まっている。「一塁(ライト)線からフェアグラウンド側に30°」のゾーンに収まった打球は、2014年が全体の29.6%、2015年が27.2%と推移してきたが、今季は34.0%へと上昇。センター、レフト方向に飛ぶ打球を減らしている。例年より引っ張りにかかっており、強い打球を打とうという意識が見てとれる。
↑では、その引っ張りは効果を生んでいるのか。鳥谷が打ったフライとライナーのうち滞空時間(バットに当たってから地面に落ちるか、グラブに収まるまでの時間)が、安打になりやすい「3秒以内」に収まったものをフィールド上にプロットしたのが次のイラストだ。高く上がった易々と捕れるフライ以外の打球が、ヒットになっているかどうか見るためのものとなる。
センターからレフト方向への打球が減少していることがわかる。センターから左へ、やや低めの弾道で逆らわずに打球を飛ばしヒットを打つ鳥谷の姿は、ファンにはお馴染みのものではないかと思う。だが、それが今季減っているのである。
昨季の646打席で、「滞空時間3秒以内」「センターからレフト方向」の打球は52本あり、39本がヒットになっていた(.750)。今季は359打席で、打球は14本しかない。ヒットは10本である(.714)。
このほかにも、外野へ放った全フライのアウト率が、昨季の74.4%から82.8%へと大幅に悪化するなど、長打量産を目指したモデルチェンジが、鳥谷のヒットゾーンを失わせていることを示唆する数字が出ている。
今、阪神が鳥谷に求めるべきものは何なのか?
今季の鳥谷は本塁打数が既に昨季に並ぶなど、ハイペースで本塁打を放っている。しかし打撃成績全体の落ち込みを見ても、このモデルチェンジが成功しているとは言いがたい。現状はデメリットのほうが大きく出ている。
35歳のベテランになりながら、チームの要求に応えるべくモデルチェンジを試みる姿勢は賞賛されるべきだろう。しかし、自らの特性を生かし作りあげられたスタイルを変えることは簡単ではなかった。もう5年間2ケタ本塁打を記録していなかった鳥谷が、突如20本塁打を目指すという方針は、様々な歪みをもたらしている可能性が高い。
どんな球をスイングしまた見逃すかといったアプローチや、どんな方向にどんな打球を打つかといった特性は、打者固有のものであることが多く、簡単に調整が効かないことも多い。成績を伸ばそうと、そうした部分に変化を加えた結果、自らの強みを消してしまうというのはよくあることだ。
鳥谷はスイングの傾向などを見る限り、アプローチについては調整が上手いタイプの打者ではあるだろう。しかし、積極的にストライクを振り、さらには引っ張っていく打撃スタイルでは、今のところ新たなヒットゾーンをつくりだせていない。
首脳陣は、キャリアの終わりが近づく選手については、何を失い何を残しているかを的確に把握し、最も効率よく貢献させるための策を考える必要がある。しかし残念ながら、今の鳥谷については、求めるべきものを求められていないように映ってならない。