ヒーローインタビューで絶叫したその言葉に、彼の苦悩がうかがえる。
5月21日のソフトバンク戦でのことだ。
9回裏2死一、二塁の場面で、プロ入り初となるサヨナラ適時打を右中間に放った鬼崎裕司が、「苦労しかないです」とその想いを言葉にしたのだった。
チームでは、完全なレギュラーという立ち位置ではない。
けれども縁の下の力持ちとして、チームを支える黒子役として、今のチームには欠かせない存在となっている。
「準備ですね。いつ出ても自分の力が出せるようにと思って、心と気持ちだけは常に準備しています。自分の持ち味は確実で堅実なプレー。派手さは求められていないと思うので、堅実にプレーしようと心掛けている」
2011年にヤクルトからトレードでやってきた。一軍と二軍、レギュラーと控えのはざまを行ったり来たりした後、2013年のシーズン後半にレギュラーをつかんだ。渡辺久信元監督(現シニアディレクター)のもとで主に9番を任され、意外性のあるバッティングと堅実な守備力で、シーズン2位に躍進するチームを支えた。
「レギュラーとして使ってもらえたんで、すべてが勉強になりました。自分のスタイルでも、プロ野球選手としてやっていけると思えたシーズンだった」
レギュラー出場を続けていた時期を、本人はそう振り返る。
故障、そしてタイムリーエラーで即刻二軍落ちも。
ところが、2014年からは状況が一転する。開幕してすぐに自打球で負傷、長期離脱を余儀なくされて活躍の場を失った。昨シーズンもケガが重なり一、二軍を行き来することに。2013年に比べると、ここ2年間、鬼崎の存在感は随分と薄くなっていた。
今季も、開幕はベンチからのスタート。一軍、二軍を行ったり来たりする9年目の鬼崎よりも、次世代育成を考えて、2年目の外崎修汰や金子侑司が使われるのは自然の成り行きだった。
一度はレギュラーをつかみかけたが、4月22日の試合で敗戦につながるタイムリーエラーを犯すと、即刻二軍落ち。若い外崎はミスを繰り返しても一軍のままだったが、鬼崎はたった一度のミスで厳しい処遇を受けた。
どんな逆風にも嘆かず、受け入れて先に進む。
それでも鬼崎は、5月4日に一軍に再昇格すると出場機会を増やし、今は遊撃手のポジションをほぼ手中にしている。
そんな自身の境遇を、鬼崎はどう受け止めてきたのか。
「自分が開幕からスタメンで出られなかったり、二軍落ちしたりというのは力不足以外の何物でもないので、嘆く気持ちはなかったです。もちろん、レギュラーになりたい、スタメンで出たいとは常に思っていますけど、現実はそうではなかった。ならば、どういう風に準備してアピールするか。いいところで一本を出したり、しぶとくいい仕事ができたときに、『じゃあ鬼崎を使おうか』と監督の頭に入れるのかなと」
遊撃手を育成したいチームの方針や自身のケガなど、不運に見舞われながらも、鬼崎は「受け入れないと先に進めないことだから」とコツコツと出場機会を狙っていたのだ。
鬼崎の左眼には、偶然にも筆者と同じ病気が。
そして筆者には個人的に、かねてから鬼崎を見ていて気になることがあった。
それは左右の眼の大きさが均等ではないということだ。詳しくいうと、左眼が右眼に比べるとやや小さく、つむっているように見える。
実は、彼の左眼には先天性の病気がある。
「先天性眼瞼下垂」というものだ。偶然にも、筆者の左眼と同じ病名だ。
眼瞼下垂には先天性と後天性のものがあるが、特徴は、外見でも分かるくらい瞼が降りてふさがっている点だ。完全にふさがっているわけではないのだが、やはり普通の人の眼よりも視界が狭い。また、太陽など強い光があるところではその瞼が通常よりもさらに下がるケースもある。
「同じ病名の人に初めて会いました。僕も手術しています。1回か2回か回数は定かじゃないですけど」と眼についても気さくに話してくれた鬼崎だが、実際、眼の状態に問題はないのだろうか。
「特に問題はないですよ。人より眼がふさがっていて視界が狭いといわれるかもしれませんけど、僕は先天性だし、生まれてからずっとこの眼だった。だから、視界が広い通常の眼というのを知らないんですよ。みんながどういう視界を持っているかわからないし、僕にとってはこの視界が普通。野球をやる分には不自由を感じたことはないです」
「這い上がってきたという風には思ってない」
筆者は同じ眼だからおおよその症状は分かるが、日常生活に問題はなくても、プロのレベルで野球をするにはハンデになるはずだ。
だが鬼崎は「本当に、見た目が変だと思われるくらいで、僕には普通」といってのけた。そのポジティブな彼の思考は、チームの中で失いかけた自身の領域を再び取り戻した心の強さともつながっているように見える。
トレード先のチームでなんとか獲得したレギュラーをケガで失い、今季はタイムリーエラーで二軍落ち。それでもこうして這い上がり、チームにとって必要なピースとして、改めて首脳陣から評価されている。
「自分では這い上がってきたという風には思っていないですね。常にレギュラーをつかみ取っていかないといけない立場だし、そのためにもっともっと野球をうまくなっていかないといけない。その想いだけですよ」
今ある現実に対しての心の置き方で人生は大きく変わる。鬼崎は嘆くことなく、目の前にある現実を受けとめ、ただ前だけを見据えている。
人よりも少し視界が狭い、その左眼を苦にすることなく。
5月21日のソフトバンク戦でのことだ。
9回裏2死一、二塁の場面で、プロ入り初となるサヨナラ適時打を右中間に放った鬼崎裕司が、「苦労しかないです」とその想いを言葉にしたのだった。
チームでは、完全なレギュラーという立ち位置ではない。
けれども縁の下の力持ちとして、チームを支える黒子役として、今のチームには欠かせない存在となっている。
「準備ですね。いつ出ても自分の力が出せるようにと思って、心と気持ちだけは常に準備しています。自分の持ち味は確実で堅実なプレー。派手さは求められていないと思うので、堅実にプレーしようと心掛けている」
2011年にヤクルトからトレードでやってきた。一軍と二軍、レギュラーと控えのはざまを行ったり来たりした後、2013年のシーズン後半にレギュラーをつかんだ。渡辺久信元監督(現シニアディレクター)のもとで主に9番を任され、意外性のあるバッティングと堅実な守備力で、シーズン2位に躍進するチームを支えた。
「レギュラーとして使ってもらえたんで、すべてが勉強になりました。自分のスタイルでも、プロ野球選手としてやっていけると思えたシーズンだった」
レギュラー出場を続けていた時期を、本人はそう振り返る。
故障、そしてタイムリーエラーで即刻二軍落ちも。
ところが、2014年からは状況が一転する。開幕してすぐに自打球で負傷、長期離脱を余儀なくされて活躍の場を失った。昨シーズンもケガが重なり一、二軍を行き来することに。2013年に比べると、ここ2年間、鬼崎の存在感は随分と薄くなっていた。
今季も、開幕はベンチからのスタート。一軍、二軍を行ったり来たりする9年目の鬼崎よりも、次世代育成を考えて、2年目の外崎修汰や金子侑司が使われるのは自然の成り行きだった。
一度はレギュラーをつかみかけたが、4月22日の試合で敗戦につながるタイムリーエラーを犯すと、即刻二軍落ち。若い外崎はミスを繰り返しても一軍のままだったが、鬼崎はたった一度のミスで厳しい処遇を受けた。
どんな逆風にも嘆かず、受け入れて先に進む。
それでも鬼崎は、5月4日に一軍に再昇格すると出場機会を増やし、今は遊撃手のポジションをほぼ手中にしている。
そんな自身の境遇を、鬼崎はどう受け止めてきたのか。
「自分が開幕からスタメンで出られなかったり、二軍落ちしたりというのは力不足以外の何物でもないので、嘆く気持ちはなかったです。もちろん、レギュラーになりたい、スタメンで出たいとは常に思っていますけど、現実はそうではなかった。ならば、どういう風に準備してアピールするか。いいところで一本を出したり、しぶとくいい仕事ができたときに、『じゃあ鬼崎を使おうか』と監督の頭に入れるのかなと」
遊撃手を育成したいチームの方針や自身のケガなど、不運に見舞われながらも、鬼崎は「受け入れないと先に進めないことだから」とコツコツと出場機会を狙っていたのだ。
鬼崎の左眼には、偶然にも筆者と同じ病気が。
そして筆者には個人的に、かねてから鬼崎を見ていて気になることがあった。
それは左右の眼の大きさが均等ではないということだ。詳しくいうと、左眼が右眼に比べるとやや小さく、つむっているように見える。
実は、彼の左眼には先天性の病気がある。
「先天性眼瞼下垂」というものだ。偶然にも、筆者の左眼と同じ病名だ。
眼瞼下垂には先天性と後天性のものがあるが、特徴は、外見でも分かるくらい瞼が降りてふさがっている点だ。完全にふさがっているわけではないのだが、やはり普通の人の眼よりも視界が狭い。また、太陽など強い光があるところではその瞼が通常よりもさらに下がるケースもある。
「同じ病名の人に初めて会いました。僕も手術しています。1回か2回か回数は定かじゃないですけど」と眼についても気さくに話してくれた鬼崎だが、実際、眼の状態に問題はないのだろうか。
「特に問題はないですよ。人より眼がふさがっていて視界が狭いといわれるかもしれませんけど、僕は先天性だし、生まれてからずっとこの眼だった。だから、視界が広い通常の眼というのを知らないんですよ。みんながどういう視界を持っているかわからないし、僕にとってはこの視界が普通。野球をやる分には不自由を感じたことはないです」
「這い上がってきたという風には思ってない」
筆者は同じ眼だからおおよその症状は分かるが、日常生活に問題はなくても、プロのレベルで野球をするにはハンデになるはずだ。
だが鬼崎は「本当に、見た目が変だと思われるくらいで、僕には普通」といってのけた。そのポジティブな彼の思考は、チームの中で失いかけた自身の領域を再び取り戻した心の強さともつながっているように見える。
トレード先のチームでなんとか獲得したレギュラーをケガで失い、今季はタイムリーエラーで二軍落ち。それでもこうして這い上がり、チームにとって必要なピースとして、改めて首脳陣から評価されている。
「自分では這い上がってきたという風には思っていないですね。常にレギュラーをつかみ取っていかないといけない立場だし、そのためにもっともっと野球をうまくなっていかないといけない。その想いだけですよ」
今ある現実に対しての心の置き方で人生は大きく変わる。鬼崎は嘆くことなく、目の前にある現実を受けとめ、ただ前だけを見据えている。
人よりも少し視界が狭い、その左眼を苦にすることなく。