日大広報部・米倉久邦氏
いつの頃からだろうか。大型会見のたび、テレビ各局のニュース番組、ワイドショーが自らの番組のキャスターやアナウンサーの質問する様子を競うように流すようになったのは―。
本来の主役である会見者の答える映像の前にセットで流されるマイクを持って質問する“番組の看板たち”の顔、また顔。ふと、その会見の主役が誰だったのかを忘れそうになる。
そう思ったのは、25日に行われた日大の大塚吉兵衛学長(74)の緊急会見を取材した時のことだった。アメリカンフットボール部の選手が悪質な反則を犯した問題で約300人の取材陣の前に現れた大塚学長は一連の騒動について謝罪。後手後手に回った同大の対応についても頭を下げた。
大塚学長は、23日の内田正人前監督と井上奨コーチの会見で司会を務めた同大広報部顧問の米倉久邦氏の司会とは思えぬ不遜な態度についての質問にも回答。同氏の取材陣に対する「しつこいですよ」「(会見を)見ていても見てなくてもいいんです」「監督、話さないでください」などの“暴言”への率直な感想を求められると、まず「難しい」。そうポツリとつぶやいた。
同氏の暴走の理由を「想像でしか言えませんけど、番組ごとに同じ会社(放送局)が別の画(映像)を撮りたがっている。同じ局なのに、3つ4つクルーが分かれていて(同じような質問を繰り返して)イラッとしたのかな」と推測。その上で問題の会見後、米倉氏と話したことを明かし、「『なんで、あんな声が出たんですか』と聞いたら、『番組ごとに画を撮ってるんだ。テレビ局は別の画が欲しいんだよ』という答えでした。そういうことで、ああいう対応が出たんではないかなと」と続けた。
「危機管理の面から(米倉氏の)司会ぶりはまずかったのでは?」と聞かれると、「ご指摘されているように、マスコミ側から見たら、無責任だということになるけど、なかなか難しいんで。白黒つけるのは難しい。態度としては良くなかったけど、内田監督の体調とかを気遣って、ああいう態度が出てしまったのではと感じているところです」と淡々と答えた。
謝罪するために日大側から呼びかけて集めた取材陣に対する米倉氏の態度は決してほめられたものではないし、会見でも指摘された通り、守るべき日大の「ブランド」を大きく傷つけたことは間違いない。
ただ、大塚学長の「同じ局なのに、3つ4つクルーが分かれていて、イラッとしたのでは」という言葉に納得してしまう自分がいたのも確かだ。
テレビ各局はこのクラスの大型会見に番組ごとに複数のクルーを送り込む。カメラマン、音声担当、ディレクター、そして番組を担当するアナウンサー。ここ2年、数多くの大型会見を取材したが、メインキャスターが来ることは少なく、サブキャスター的な存在の女性アナウンサーやキャスターが現場に来ることが多いと思う。
こうしたアナウンサー、キャスターたちが自らの番組名と名前を名乗り、質問合戦を展開する。その際、会見場のサイドに陣取る当該番組のカメラが、それぞれの番組の顔たちの質問する映像を撮る。この際、米倉氏を“キレさせた”類似質問が頻発するのだ。
この日の大塚学長の会見の中盤にも民放ニュース番組の女性アナが会見前から隣に座ったディレクターと綿密な打ち合わせの末、質問した。しかし、その内容はそれまでに複数の一般紙記者から出た質問とほぼ似通った情緒的な質問。学長の答えも、ほぼ同じものになることが事前に想像できるものだった。
ちょっとだけ意地悪な見方をする。この女性アナの質問は自局のニュース番組で流す自身が質問している瞬間の映像を撮るための質問ではないか。自分が本当に聞きたかった質問なのか。申し訳ないが、そんな疑問が頭に浮かんでしまった。冒頭の疑問、会見の主人公は誰なのか。視聴者が、そのやり取りの際の表情、話し方に注視し、「見たい」と思っているのは誰なのかという問題になる。
“逆ギレ司会者”として一躍有名になってしまった米倉氏は共同通信社で論説委員室長を務めた元記者で、02年に同社を定年退職した古いタイプのマスコミ人。共同通信ではワシントン特派員、経済部長、ニュースセンター長などを務めたという報道一筋だった“御大”にとっては、「あれ、また、〇〇テレビか? さっきも同じような質問を〇〇テレビの別の記者がしていたじゃないか? イラッ! ムカッ!」(かぎカッコ内は、あくまで私の想像)という感じだったのではないか。
私自身のことも書く。どんな取材でも「これだけは聞こう」という質問を用意して現場に行くようにしているが、先に質問した他社の記者が自分と似通った質問をした場合や異なった質問でも「たぶん同じ答えが返ってくるな」と思った場合は質問はしない。違う人間が同じ質問を繰り返すことで取材対象者の本音が徐々に漏れてくるというのも確かだが、それも時と場合、会見の性質による。
失礼な言い方かも知れないが、会見の場を自己表現の場と捉えてしまっているキャスター、アナウンサーが一部いるのは確かだ。あなたは取材者か。それとも出演者(表現者)なのか。それは、あらゆる取材者に日々、問われ続ける問題でもある。(記者コラム・中村 健吾)
いつの頃からだろうか。大型会見のたび、テレビ各局のニュース番組、ワイドショーが自らの番組のキャスターやアナウンサーの質問する様子を競うように流すようになったのは―。
本来の主役である会見者の答える映像の前にセットで流されるマイクを持って質問する“番組の看板たち”の顔、また顔。ふと、その会見の主役が誰だったのかを忘れそうになる。
そう思ったのは、25日に行われた日大の大塚吉兵衛学長(74)の緊急会見を取材した時のことだった。アメリカンフットボール部の選手が悪質な反則を犯した問題で約300人の取材陣の前に現れた大塚学長は一連の騒動について謝罪。後手後手に回った同大の対応についても頭を下げた。
大塚学長は、23日の内田正人前監督と井上奨コーチの会見で司会を務めた同大広報部顧問の米倉久邦氏の司会とは思えぬ不遜な態度についての質問にも回答。同氏の取材陣に対する「しつこいですよ」「(会見を)見ていても見てなくてもいいんです」「監督、話さないでください」などの“暴言”への率直な感想を求められると、まず「難しい」。そうポツリとつぶやいた。
同氏の暴走の理由を「想像でしか言えませんけど、番組ごとに同じ会社(放送局)が別の画(映像)を撮りたがっている。同じ局なのに、3つ4つクルーが分かれていて(同じような質問を繰り返して)イラッとしたのかな」と推測。その上で問題の会見後、米倉氏と話したことを明かし、「『なんで、あんな声が出たんですか』と聞いたら、『番組ごとに画を撮ってるんだ。テレビ局は別の画が欲しいんだよ』という答えでした。そういうことで、ああいう対応が出たんではないかなと」と続けた。
「危機管理の面から(米倉氏の)司会ぶりはまずかったのでは?」と聞かれると、「ご指摘されているように、マスコミ側から見たら、無責任だということになるけど、なかなか難しいんで。白黒つけるのは難しい。態度としては良くなかったけど、内田監督の体調とかを気遣って、ああいう態度が出てしまったのではと感じているところです」と淡々と答えた。
謝罪するために日大側から呼びかけて集めた取材陣に対する米倉氏の態度は決してほめられたものではないし、会見でも指摘された通り、守るべき日大の「ブランド」を大きく傷つけたことは間違いない。
ただ、大塚学長の「同じ局なのに、3つ4つクルーが分かれていて、イラッとしたのでは」という言葉に納得してしまう自分がいたのも確かだ。
テレビ各局はこのクラスの大型会見に番組ごとに複数のクルーを送り込む。カメラマン、音声担当、ディレクター、そして番組を担当するアナウンサー。ここ2年、数多くの大型会見を取材したが、メインキャスターが来ることは少なく、サブキャスター的な存在の女性アナウンサーやキャスターが現場に来ることが多いと思う。
こうしたアナウンサー、キャスターたちが自らの番組名と名前を名乗り、質問合戦を展開する。その際、会見場のサイドに陣取る当該番組のカメラが、それぞれの番組の顔たちの質問する映像を撮る。この際、米倉氏を“キレさせた”類似質問が頻発するのだ。
この日の大塚学長の会見の中盤にも民放ニュース番組の女性アナが会見前から隣に座ったディレクターと綿密な打ち合わせの末、質問した。しかし、その内容はそれまでに複数の一般紙記者から出た質問とほぼ似通った情緒的な質問。学長の答えも、ほぼ同じものになることが事前に想像できるものだった。
ちょっとだけ意地悪な見方をする。この女性アナの質問は自局のニュース番組で流す自身が質問している瞬間の映像を撮るための質問ではないか。自分が本当に聞きたかった質問なのか。申し訳ないが、そんな疑問が頭に浮かんでしまった。冒頭の疑問、会見の主人公は誰なのか。視聴者が、そのやり取りの際の表情、話し方に注視し、「見たい」と思っているのは誰なのかという問題になる。
“逆ギレ司会者”として一躍有名になってしまった米倉氏は共同通信社で論説委員室長を務めた元記者で、02年に同社を定年退職した古いタイプのマスコミ人。共同通信ではワシントン特派員、経済部長、ニュースセンター長などを務めたという報道一筋だった“御大”にとっては、「あれ、また、〇〇テレビか? さっきも同じような質問を〇〇テレビの別の記者がしていたじゃないか? イラッ! ムカッ!」(かぎカッコ内は、あくまで私の想像)という感じだったのではないか。
私自身のことも書く。どんな取材でも「これだけは聞こう」という質問を用意して現場に行くようにしているが、先に質問した他社の記者が自分と似通った質問をした場合や異なった質問でも「たぶん同じ答えが返ってくるな」と思った場合は質問はしない。違う人間が同じ質問を繰り返すことで取材対象者の本音が徐々に漏れてくるというのも確かだが、それも時と場合、会見の性質による。
失礼な言い方かも知れないが、会見の場を自己表現の場と捉えてしまっているキャスター、アナウンサーが一部いるのは確かだ。あなたは取材者か。それとも出演者(表現者)なのか。それは、あらゆる取材者に日々、問われ続ける問題でもある。(記者コラム・中村 健吾)