巨人・木佐貫洋スカウト
2008年春季キャンプでの木佐貫投手
巨人時代の木佐貫の投球フォーム
プロ野球は春季キャンプ真っただ中。私は巨人、西武、ヤクルトの担当記者を経験したが、春季キャンプで最も印象に残っているのは、2008年の巨人担当時代に取材した木佐貫洋氏(現巨人スカウト)のファンサービスだ。
右腕は、自身のサイン入りベースボールカードをファンに配ることを日課にしていた。つい先日、そのことを話すと、懐かしそうに振り返ってくれた。
「もちろん(色紙など)1枚1枚にサインしてあげられるのが一番いいんでしょうけどね。でも、カードの渡し方も進化していったんですよ。ファンの方々とのやり取りの中で、変わっていったんです」
08年当時の私は、入社1年目。巨人担当記者7人の7番目として、日々の小ネタを中心にお届けする「ジャイアンツ日記」を担当していた。以下は、2008年2月17日付紙面に掲載したものだ。
××××××××××××
「これでお願いします」。早朝散歩中、ファンからサインをねだられた木佐貫は、直筆サイン入りの野球カードを手渡した。実はカードには、こだわりが隠されている。「シリアルナンバーを入れているんです」。昨年は約1700枚、今年も約500枚配った。「1と背番号の41だけは配っていないんです。これは自分の記念」。カードをもらったファンのみなさん、チェックしてみては。
××××××××××××
スタートは2005年頃。ファンサービスの一環として使えるように、球団から1人100枚のベースボールカードを配られたことがきっかけだったという。そのままファンに渡しても良かったのだが、木佐貫氏は1枚1枚にサインをする事にした。
キャンプ地を訪れたファンからすれば、お目当ての選手からサインなどをもらいたいと思うのは当然のこと。だが、選手側の目線に立つと、練習の合間にサインをするのは、時間と労力が必要だ。自身のスケジュールと、体調にも気を配らないといけない。
木佐貫氏はキャンプでの練習後や、宿舎での空き時間を使って黙々とサインを書いた。前述の早朝散歩など、きちんと対応出来ない時などに、手渡しで配った。ファンからも好評だったが、次第に「サインが印刷なのでは」「同じカードをコピーしてあるのでは」などという声を聞くようになったという。
そこで、1つ手を加えることにした。1枚ごとに「ナンバー」を入れることにしたのだ。
「これなら大丈夫だろうと思いました。巨人と日本ハムの時は、キャンプで1000枚を配ることを目標にしていました。年間だと、4000枚ぐらいはナンバリングしたと思います。めんどくさいとも思わなかったですし、内職するのが好きだったんですね。スーツケースに入れておいて、遠征先などで時間がある時に書いて」
カードは1年ごとにデザインが異なるため、ナンバリングされた「限定品」もファンから好評だった。だが、次第に「(マジックで書かれた)カードのサインが消えてしまう」などという声を聞くようになったという。
そこで思いついたのが、100円ショップで売っていた、薄い透明なカードケースだった。
「あれが100枚100円で売っていたんです。1枚1円ですよね。それなら自分で買って、1枚ずつ入れればいいんじゃないかって。(キャンプ地の)宮崎の100円ショップ行って、どさっとまとめ買いしましたよ」
話を聞きながら想像して、失礼ながら本人を前にして笑ってしまった。遠征先のホテルの一室で、身長188センチの大型右腕が、カードに黙々とサイン。律義にナンバリングまで。そして、自身が100円ショップで購入した透明のビニールケースにサッと入れる…。
巨人を離れても、移籍したオリックス、日本ハムで続けた。延べ数万枚。ファンを愛したからこそ、ファンに愛された。その実直な人柄を、改めて感じた。(記者コラム・青柳 明)
◆木佐貫 洋(きさぬき・ひろし)1980年5月17日、鹿児島県生まれ。37歳。川内、亜大を経て02年自由獲得枠で巨人入団。1年目の03年に10勝7敗で新人王。07年には12勝(9敗)を挙げリーグ優勝に貢献。10年からオリックス、13年から日本ハムでプレー。15年限りで現役を引退し、16年から巨人でスカウトを務めている。今年のルーキーでは、母校の後輩でもある亜大・北村を担当した。通算成績は215試合で62勝72敗10セーブ。防御率3・76。188センチ、84キロ。右投右打。
2008年春季キャンプでの木佐貫投手
巨人時代の木佐貫の投球フォーム
プロ野球は春季キャンプ真っただ中。私は巨人、西武、ヤクルトの担当記者を経験したが、春季キャンプで最も印象に残っているのは、2008年の巨人担当時代に取材した木佐貫洋氏(現巨人スカウト)のファンサービスだ。
右腕は、自身のサイン入りベースボールカードをファンに配ることを日課にしていた。つい先日、そのことを話すと、懐かしそうに振り返ってくれた。
「もちろん(色紙など)1枚1枚にサインしてあげられるのが一番いいんでしょうけどね。でも、カードの渡し方も進化していったんですよ。ファンの方々とのやり取りの中で、変わっていったんです」
08年当時の私は、入社1年目。巨人担当記者7人の7番目として、日々の小ネタを中心にお届けする「ジャイアンツ日記」を担当していた。以下は、2008年2月17日付紙面に掲載したものだ。
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「これでお願いします」。早朝散歩中、ファンからサインをねだられた木佐貫は、直筆サイン入りの野球カードを手渡した。実はカードには、こだわりが隠されている。「シリアルナンバーを入れているんです」。昨年は約1700枚、今年も約500枚配った。「1と背番号の41だけは配っていないんです。これは自分の記念」。カードをもらったファンのみなさん、チェックしてみては。
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スタートは2005年頃。ファンサービスの一環として使えるように、球団から1人100枚のベースボールカードを配られたことがきっかけだったという。そのままファンに渡しても良かったのだが、木佐貫氏は1枚1枚にサインをする事にした。
キャンプ地を訪れたファンからすれば、お目当ての選手からサインなどをもらいたいと思うのは当然のこと。だが、選手側の目線に立つと、練習の合間にサインをするのは、時間と労力が必要だ。自身のスケジュールと、体調にも気を配らないといけない。
木佐貫氏はキャンプでの練習後や、宿舎での空き時間を使って黙々とサインを書いた。前述の早朝散歩など、きちんと対応出来ない時などに、手渡しで配った。ファンからも好評だったが、次第に「サインが印刷なのでは」「同じカードをコピーしてあるのでは」などという声を聞くようになったという。
そこで、1つ手を加えることにした。1枚ごとに「ナンバー」を入れることにしたのだ。
「これなら大丈夫だろうと思いました。巨人と日本ハムの時は、キャンプで1000枚を配ることを目標にしていました。年間だと、4000枚ぐらいはナンバリングしたと思います。めんどくさいとも思わなかったですし、内職するのが好きだったんですね。スーツケースに入れておいて、遠征先などで時間がある時に書いて」
カードは1年ごとにデザインが異なるため、ナンバリングされた「限定品」もファンから好評だった。だが、次第に「(マジックで書かれた)カードのサインが消えてしまう」などという声を聞くようになったという。
そこで思いついたのが、100円ショップで売っていた、薄い透明なカードケースだった。
「あれが100枚100円で売っていたんです。1枚1円ですよね。それなら自分で買って、1枚ずつ入れればいいんじゃないかって。(キャンプ地の)宮崎の100円ショップ行って、どさっとまとめ買いしましたよ」
話を聞きながら想像して、失礼ながら本人を前にして笑ってしまった。遠征先のホテルの一室で、身長188センチの大型右腕が、カードに黙々とサイン。律義にナンバリングまで。そして、自身が100円ショップで購入した透明のビニールケースにサッと入れる…。
巨人を離れても、移籍したオリックス、日本ハムで続けた。延べ数万枚。ファンを愛したからこそ、ファンに愛された。その実直な人柄を、改めて感じた。(記者コラム・青柳 明)
◆木佐貫 洋(きさぬき・ひろし)1980年5月17日、鹿児島県生まれ。37歳。川内、亜大を経て02年自由獲得枠で巨人入団。1年目の03年に10勝7敗で新人王。07年には12勝(9敗)を挙げリーグ優勝に貢献。10年からオリックス、13年から日本ハムでプレー。15年限りで現役を引退し、16年から巨人でスカウトを務めている。今年のルーキーでは、母校の後輩でもある亜大・北村を担当した。通算成績は215試合で62勝72敗10セーブ。防御率3・76。188センチ、84キロ。右投右打。