7日の入団会見で気合たっぷりの表情を見せるソフトバンクの大竹耕太郎
独特のフォームで活躍した早大時代の大竹耕太郎
12月7日、福岡市内のホテルで行われたソフトバンクの入団会見。その選手は背中に133という重い番号を背負って、笑顔を見せた。
「自分は150キロを出せるピッチャーじゃない。緩急、キレで勝負。スピードのない投手にも希望を与えられるようなピッチャーになりたい」―。早大スポーツ科学部4年の大竹耕太郎(22)はそう言って、日本一チームの一員となった。
2016年の日本ハム2位指名の石井一成まで早大野球部は10年連続でドラフトの本指名選手を輩出し続けてきた。しかし、大竹は11年・広島育成3位指名の塚田晃平以来となる早大史上2人目の育成選手としての入団。それも4位だった。
大学OBの集まりでは校歌「都の西北」、応援歌「紺碧の空」を歌い、東京・早稲田の本部キャンパスの大隈重信先生の銅像前では襟を正す―。自分のことを平均的な愛校心の持ち主だと思っているが、はるか後輩の大竹の育成枠でのプロ入りには、どうにも納得がいかなかった。
熊本・済々黌高時代は12年夏、13年センバツと2度の甲子園出場。14年に入学すると、2年春には早慶戦で完封勝利を挙げ、胴上げ投手に。同年の東京六大学リーグ春秋連覇、全日本大学野球選手権優勝にも貢献。確かに直球は130キロ台中心と球威こそないが、独特の球が見えないフォームと緩急を付けた投球術は抜群。3年生以降、ケガに悩まされた時期もあったが、10月のドラフトでは11年連続となる早大出身選手の本ドラフト指名を信じていた。
私には大竹に強い思い入れがあった。理由は1人の友の死だ。昨年1月、大学卒業後も30年近く付き合い続けてきた親友が急死した。大手企業の内定を蹴ってまで早大の大学職員になるほど、早稲田の杜を愛していた男だった。いつも大学カラーのエンジ色のネクタイをしていた。
彼が「済々黌の大竹が今度、早稲田に入るよ。たぶん1年から勝ちまくるよ」と笑顔で言ったのが4年前の冬。その言葉どおり、大竹は白にエンジの文字のユニホームを着て躍動。プロ入りの夢をかなえたが、大竹のピッチングを見るために神宮に通っていた彼は今、この世にいない。
彼の影響もあり、私はずっと「早大野球部」のファンだった。在学中の87年、本部キャンパスにあった安部球場が閉鎖される際は駆けつけたOBの谷沢健一さん(野球評論家)に記念写真をせがみ、年齢の近い小宮山悟(野球評論家)が早慶戦で慶大の大森剛を敬遠するの嫌さにマウンドで涙を流せば、神宮球場のスタンドで「情けないぞ!」とヤジった。今でも日本ハム・有原航平のピッチングに胸躍らせ、楽天・茂木栄五郎の首位打者獲得を願い、阪神・鳥谷敬の健在ぶりにホッと胸をなで下ろす。
中でも3人とも今ひとつの成績のまま、プロ入り8年目を迎えようとしている日本ハム・斎藤佑樹、西武・大石達也、広島・福井優也の10年のドラフト1位トリオには心底、イライラさせられ続けている。
そう言えば、斎藤の1年時の大活躍。特に全日本大学選手権33ぶりの優勝に貢献し、MVPに選ばれた際の大学への凱旋(がいせん)の様子は、亡き友の大学職員ならではの視線でたっぷり解説してもらったことを思い出す。
そして、今、彼が心の底から期待していた大竹が早大出身としては02年の和田毅以来となるソフトバンクの指名を受け、入団する。そう、たとえ球速は出なくとも球の見づらいフォームと緩急、最高のお手本・和田がホークスにはいる。
大竹は「迷いはありましたが、プロ1本という思いで社会人の誘いも全部お断りしていました」と言い切った。「ワセダのエース」なら取りあえず社会人野球に進み、2年後の上位指名を待つ―。そんな選択肢もあったはずだ。
しかし、「支配下の選手でも結果を残さなければ、2、3年でクビになるのがプロの世界。すべては自分の努力次第だと思う」と大竹。その言葉どおり、このオフには08年のドラフトで横浜(当時)と阪神から重複1位指名を受け、抽選の末、横浜に入団した松本啓二朗が31歳で戦力外通告を受け、来年から地元・千葉の社会人チーム・新日鉄住金かずさマジックでプレーすることになった。
自ら退路を断って、どう見ても球界一、層の厚いソフトバンク投手陣の中に飛び込んでいく大竹。早大の校歌には「進取の精神」という歌詞がある。
「みずから進んで物事に取り組む」精神で1日も早い支配下登録を勝ち取り、ヤフオクドームのマウンドで躍動する―。そんな22歳の活躍を、今は天国にいる親友とともに願っている。(記者コラム・中村 健吾)
◆早大出身プロ野球選手(2017年12月現在)
▼ソフトバンク 和田毅、大竹耕太郎
▼西武 大石達也
▼楽天 高梨雄平、茂木栄五郎、横山貴明
▼日本ハム 斎藤佑樹、有原航平、大嶋匠、石井一成
▼ロッテ 中村奨吾
▼広島 福井優也、土生翔平
▼阪神 上本博紀、鳥谷敬
▼DeNA 須田幸太、田中浩康、笠井崇正
▼巨人 重信慎之介
▼中日 杉山翔大
▼ヤクルト 武内晋一
独特のフォームで活躍した早大時代の大竹耕太郎
12月7日、福岡市内のホテルで行われたソフトバンクの入団会見。その選手は背中に133という重い番号を背負って、笑顔を見せた。
「自分は150キロを出せるピッチャーじゃない。緩急、キレで勝負。スピードのない投手にも希望を与えられるようなピッチャーになりたい」―。早大スポーツ科学部4年の大竹耕太郎(22)はそう言って、日本一チームの一員となった。
2016年の日本ハム2位指名の石井一成まで早大野球部は10年連続でドラフトの本指名選手を輩出し続けてきた。しかし、大竹は11年・広島育成3位指名の塚田晃平以来となる早大史上2人目の育成選手としての入団。それも4位だった。
大学OBの集まりでは校歌「都の西北」、応援歌「紺碧の空」を歌い、東京・早稲田の本部キャンパスの大隈重信先生の銅像前では襟を正す―。自分のことを平均的な愛校心の持ち主だと思っているが、はるか後輩の大竹の育成枠でのプロ入りには、どうにも納得がいかなかった。
熊本・済々黌高時代は12年夏、13年センバツと2度の甲子園出場。14年に入学すると、2年春には早慶戦で完封勝利を挙げ、胴上げ投手に。同年の東京六大学リーグ春秋連覇、全日本大学野球選手権優勝にも貢献。確かに直球は130キロ台中心と球威こそないが、独特の球が見えないフォームと緩急を付けた投球術は抜群。3年生以降、ケガに悩まされた時期もあったが、10月のドラフトでは11年連続となる早大出身選手の本ドラフト指名を信じていた。
私には大竹に強い思い入れがあった。理由は1人の友の死だ。昨年1月、大学卒業後も30年近く付き合い続けてきた親友が急死した。大手企業の内定を蹴ってまで早大の大学職員になるほど、早稲田の杜を愛していた男だった。いつも大学カラーのエンジ色のネクタイをしていた。
彼が「済々黌の大竹が今度、早稲田に入るよ。たぶん1年から勝ちまくるよ」と笑顔で言ったのが4年前の冬。その言葉どおり、大竹は白にエンジの文字のユニホームを着て躍動。プロ入りの夢をかなえたが、大竹のピッチングを見るために神宮に通っていた彼は今、この世にいない。
彼の影響もあり、私はずっと「早大野球部」のファンだった。在学中の87年、本部キャンパスにあった安部球場が閉鎖される際は駆けつけたOBの谷沢健一さん(野球評論家)に記念写真をせがみ、年齢の近い小宮山悟(野球評論家)が早慶戦で慶大の大森剛を敬遠するの嫌さにマウンドで涙を流せば、神宮球場のスタンドで「情けないぞ!」とヤジった。今でも日本ハム・有原航平のピッチングに胸躍らせ、楽天・茂木栄五郎の首位打者獲得を願い、阪神・鳥谷敬の健在ぶりにホッと胸をなで下ろす。
中でも3人とも今ひとつの成績のまま、プロ入り8年目を迎えようとしている日本ハム・斎藤佑樹、西武・大石達也、広島・福井優也の10年のドラフト1位トリオには心底、イライラさせられ続けている。
そう言えば、斎藤の1年時の大活躍。特に全日本大学選手権33ぶりの優勝に貢献し、MVPに選ばれた際の大学への凱旋(がいせん)の様子は、亡き友の大学職員ならではの視線でたっぷり解説してもらったことを思い出す。
そして、今、彼が心の底から期待していた大竹が早大出身としては02年の和田毅以来となるソフトバンクの指名を受け、入団する。そう、たとえ球速は出なくとも球の見づらいフォームと緩急、最高のお手本・和田がホークスにはいる。
大竹は「迷いはありましたが、プロ1本という思いで社会人の誘いも全部お断りしていました」と言い切った。「ワセダのエース」なら取りあえず社会人野球に進み、2年後の上位指名を待つ―。そんな選択肢もあったはずだ。
しかし、「支配下の選手でも結果を残さなければ、2、3年でクビになるのがプロの世界。すべては自分の努力次第だと思う」と大竹。その言葉どおり、このオフには08年のドラフトで横浜(当時)と阪神から重複1位指名を受け、抽選の末、横浜に入団した松本啓二朗が31歳で戦力外通告を受け、来年から地元・千葉の社会人チーム・新日鉄住金かずさマジックでプレーすることになった。
自ら退路を断って、どう見ても球界一、層の厚いソフトバンク投手陣の中に飛び込んでいく大竹。早大の校歌には「進取の精神」という歌詞がある。
「みずから進んで物事に取り組む」精神で1日も早い支配下登録を勝ち取り、ヤフオクドームのマウンドで躍動する―。そんな22歳の活躍を、今は天国にいる親友とともに願っている。(記者コラム・中村 健吾)
◆早大出身プロ野球選手(2017年12月現在)
▼ソフトバンク 和田毅、大竹耕太郎
▼西武 大石達也
▼楽天 高梨雄平、茂木栄五郎、横山貴明
▼日本ハム 斎藤佑樹、有原航平、大嶋匠、石井一成
▼ロッテ 中村奨吾
▼広島 福井優也、土生翔平
▼阪神 上本博紀、鳥谷敬
▼DeNA 須田幸太、田中浩康、笠井崇正
▼巨人 重信慎之介
▼中日 杉山翔大
▼ヤクルト 武内晋一