10月3日、最終戦後に行われたセレモニーで胴上げをされる真中監督
ヤクルト・真中満前監督(46)は、明るく、オープンな人だった。無駄を嫌い、効率重視。試合前でもハッキリと、淀みない口調で、報道陣にとって本当にありがたい存在だった。
今季、チームは球団史上ワーストの96敗。低迷の責任を取る形で、8月22日に今季限りで退くことを表明した。現場のトップがシーズン途中に辞意を明かした場合、そのまま休養に入ることも多いが、来年の新体制のことを思い、最後まで全力で指揮を執った。
負けが込むと、当然質問をしにくい空気になる。それでも、試合前にはベンチに座り、囲み取材を受けてくれた。時には、自ら話題を広げてくれた。聞きづらい質問にも「なんだ、ネタ切れか?」と笑って答えてくれた。
家庭でも、その姿勢は変わらないのだろう。真中家では、就寝時以外は家族全員がリビングにいる習慣がある。タブレット端末を使用し、それぞれが見たいテレビ番組を見るなどしているというが、それも一家の大黒柱の人柄があってのこと。思春期の息子、娘でも過ごしやすい、笑いの絶えない空間なのだと容易に想像がつく。
だからこそ、今季最終戦後のセレモニーで見せた涙には驚いたし、それだけの重圧を受けていたのだと改めて感じた。監督という仕事は、普通の人には務まらない。ましてや、2年前には14年ぶりのリーグ優勝に導いた功労者だ。川端にはバントを求めず、攻撃的2番打者の地位を確立させた。柔軟な発想力、その手腕でチームを押し上げた功績を忘れてはいけない。
今年の歴史的大敗を語る際、故障者の話題は避けては通れない。椎間板ヘルニアで全休の川端を始め、畠山、雄平、小川ら、主力がことごとく離脱した。ヤクルトというチームは例年けが人が多いが、その原因を前指揮官は以下のように分析している。
「トレーナーのせいだなんて一切思っていない。だってさ、12球団のトレーニングコーチがね、このハイテクな時代でそんなに差があると思うか? けが人が出るチーム、出ないチームでそんなに差があるとは思えない」
「一つ(の原因として)は選手個々の自覚だよ。レギュラーとしての自覚があるかどうか。高い給料をもらっているということは、1年間出続けることが当たり前。自分自身のプライドというか、責任感があるかどうか。同じ30分でも、練習するのは個人だから。俺ら(首脳陣)がただやらせるのと、本人が必死にやるのとでは同じ時間でも全く違う」
「強いチームには、意識の高い選手が多いよ。今年の悔しい経験を生かして、何とか自分たちで頑張っていくという気持ちがなかったら、誰が監督をやっても、誰がコーチをやっても一緒だと思う」
こうした意見の根底には「やっぱりヤクルトというチームが好きだからね」という思いがある。球団からは来季の続投要請を受けていたが、チームの未来を思うと、自然と答えは決まっていた。悔しさ、やり返したい気持ちはあっても「今がチームの変え時じゃないかな」と一言。「もう一度俺が(監督を)やらせてもらってもね。チームを変えるという意味では、タイミング的には(今季限りでの退任が)一番いいのかなって。選手には、何とか反骨心を持って頑張ってほしいな」と切に願った。
今月17日。福島・楢葉町内で行われた野球教室で前指揮官と再会した。シーズン終了以来約2か月半ぶりに顔を合わせ、あいさつとともに担当が変わる可能性を報告すると「まあ、お前も責任を取れよ」と言って豪快に笑った。記者に対しても、分け隔てなく接してくれる“真中節”に、自然と笑顔になった。
時は戻って5月。背番号77に「監督とは、どういう職業ですか?」と聞いたことがある。「普通に生きていて、こんなに一喜一憂する仕事はないよ。本当に幸せなことだと思う」。来年からは、解説者などとして活動すると聞いた。職業は変わろうとも、きっと他人(ひと)を魅了するに違いない。(記者コラム・中村 晃大)
ヤクルト・真中満前監督(46)は、明るく、オープンな人だった。無駄を嫌い、効率重視。試合前でもハッキリと、淀みない口調で、報道陣にとって本当にありがたい存在だった。
今季、チームは球団史上ワーストの96敗。低迷の責任を取る形で、8月22日に今季限りで退くことを表明した。現場のトップがシーズン途中に辞意を明かした場合、そのまま休養に入ることも多いが、来年の新体制のことを思い、最後まで全力で指揮を執った。
負けが込むと、当然質問をしにくい空気になる。それでも、試合前にはベンチに座り、囲み取材を受けてくれた。時には、自ら話題を広げてくれた。聞きづらい質問にも「なんだ、ネタ切れか?」と笑って答えてくれた。
家庭でも、その姿勢は変わらないのだろう。真中家では、就寝時以外は家族全員がリビングにいる習慣がある。タブレット端末を使用し、それぞれが見たいテレビ番組を見るなどしているというが、それも一家の大黒柱の人柄があってのこと。思春期の息子、娘でも過ごしやすい、笑いの絶えない空間なのだと容易に想像がつく。
だからこそ、今季最終戦後のセレモニーで見せた涙には驚いたし、それだけの重圧を受けていたのだと改めて感じた。監督という仕事は、普通の人には務まらない。ましてや、2年前には14年ぶりのリーグ優勝に導いた功労者だ。川端にはバントを求めず、攻撃的2番打者の地位を確立させた。柔軟な発想力、その手腕でチームを押し上げた功績を忘れてはいけない。
今年の歴史的大敗を語る際、故障者の話題は避けては通れない。椎間板ヘルニアで全休の川端を始め、畠山、雄平、小川ら、主力がことごとく離脱した。ヤクルトというチームは例年けが人が多いが、その原因を前指揮官は以下のように分析している。
「トレーナーのせいだなんて一切思っていない。だってさ、12球団のトレーニングコーチがね、このハイテクな時代でそんなに差があると思うか? けが人が出るチーム、出ないチームでそんなに差があるとは思えない」
「一つ(の原因として)は選手個々の自覚だよ。レギュラーとしての自覚があるかどうか。高い給料をもらっているということは、1年間出続けることが当たり前。自分自身のプライドというか、責任感があるかどうか。同じ30分でも、練習するのは個人だから。俺ら(首脳陣)がただやらせるのと、本人が必死にやるのとでは同じ時間でも全く違う」
「強いチームには、意識の高い選手が多いよ。今年の悔しい経験を生かして、何とか自分たちで頑張っていくという気持ちがなかったら、誰が監督をやっても、誰がコーチをやっても一緒だと思う」
こうした意見の根底には「やっぱりヤクルトというチームが好きだからね」という思いがある。球団からは来季の続投要請を受けていたが、チームの未来を思うと、自然と答えは決まっていた。悔しさ、やり返したい気持ちはあっても「今がチームの変え時じゃないかな」と一言。「もう一度俺が(監督を)やらせてもらってもね。チームを変えるという意味では、タイミング的には(今季限りでの退任が)一番いいのかなって。選手には、何とか反骨心を持って頑張ってほしいな」と切に願った。
今月17日。福島・楢葉町内で行われた野球教室で前指揮官と再会した。シーズン終了以来約2か月半ぶりに顔を合わせ、あいさつとともに担当が変わる可能性を報告すると「まあ、お前も責任を取れよ」と言って豪快に笑った。記者に対しても、分け隔てなく接してくれる“真中節”に、自然と笑顔になった。
時は戻って5月。背番号77に「監督とは、どういう職業ですか?」と聞いたことがある。「普通に生きていて、こんなに一喜一憂する仕事はないよ。本当に幸せなことだと思う」。来年からは、解説者などとして活動すると聞いた。職業は変わろうとも、きっと他人(ひと)を魅了するに違いない。(記者コラム・中村 晃大)