↑苛立ちも一瞬。こちらのリクエストに、きっちりポーズを決める内藤哲也(右)とオカダ・カズチカ
「しまった」と思った時は、もう遅い。自分では「会心のいい質問だ」なんて思った問いかけで、取材相手の意外な苛立ちを誘ってしまうことがある。記者をしていれば、誰でも何回かは経験することだとは思うが。
10日に東京・六本木のテレビ朝日で行われた来年1月4日の新日本プロレス最大の大会、東京ドームでの「WRESTLE KINGDOM12」第1弾カード発表会見。壇上にはメインイベントでIWGPヘビー級王座をかけて戦うことが決まった王者・オカダ・カズチカ(29)と挑戦者、8月の「G1クライマックス27」の覇者・内藤哲也(35)が並んで座っていた。
昨年来、大ブームとなっている“制御不能のカリスマ”内藤率いるユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」に敬意を表して「内藤さんのカリスマ性はすごいと思います。会場のお客さんはほとんど、ロス・インゴのTシャツを着た人ばかりだし、2人が戦えば、1・4は新しいことが生まれるんじゃないかと楽しみです」とオカダ。
内藤も「僕から王座を奪って、1年4か月間、防衛を続けている。これは偶然じゃない。オカダに、その力があるからで、素晴らしいチャンピオンだと思いますよ。僕の東京ドーム大会の相手としては、ふさわしいんじゃないですか」と返す。ここ10年の新日を支えてきた「100年に1人の逸材」棚橋弘至(40)の人気を凌駕し、新日の主役の座を争う2人の華やかなツーショットに、こちらも思わず興奮。最後の質問として、思わず聞いてしまった。
「常にすごい試合を提供し続けてきた名勝負製造マシーンの2人ゆえに東京ドームという大舞台で、今までの戦いを上回る最高の試合を見せなければというプレッシャーと不安はありませんか?」。
オカダはケニー・オメガ(33)と今年1月4日の東京ドームのメイン、6月の60分フルタイム・ドローと死闘を演じてきた。内藤も8月13日のオメガとのG1優勝決定戦は個人的に今年のベストバウト。G1史上最長の34分35秒間、全く休むことなく互いに危険な技をかけ合う現在のハイスパート・レスリングの最高峰。客席で涙を浮かべる観客を何人も見かけた、すごい戦いだった。
だからこそ、自分としては、共に笑顔かつ気合の入った表情で熱い戦いを誓う2人―なんて言う構図が浮かぶ“ナイス質問”のつもりだった。ところが…。
司会者に「まず、内藤さん」と答えを求められた内藤は「う~ん」とうなって数秒間、沈黙。「まあ、プロレスにおいて自信がなかったら、僕は新日本のリングに上がってないですよ。自信があるから、今の新日本のリングで戦い続けてきたわけで」と話した後、トレードマークの大きな目で、じっと、こちらを見つめた。「ちょっと申し訳ないですけど、意味不明の質問ですね。自信があるのか、ないのか。じゃ、自信がないですって言ったら、どうなりますか?」と逆に聞かれた。
思わず口ごもると、「自信がなかったら、この場にいないでしょ。自信がなかったら、G1には優勝できませんよ。わざわざ答える必要のない質問ですね」。そう言い放ち、マイクを置いた。
オカダにも「いい試合しようなんて、全然思ってないですよ。まあ、このベルトを守ることが第一だと思ってるんで。そんなことは考えていません」。こちらもあっさりと返された。
相手の技を受け、耐え続け、最後に自身のフィニッシュホールドで相手をマットに沈める。オカダならレインメーカー。内藤ならデスティーノ。必殺技を繰り出した瞬間、両国国技館なら1万人、東京ドームなら2万人を優に超える大観衆の称賛を一身に浴びるのが、プロレスラーという選ばれた存在だ。
ハイスパートに次ぐハイスパート。先鋭化する新日マットで、常に命がけの戦いを展開し、ファンの熱い支持を集めているのが、内藤とオカダであることは間違いない。そこに「いい試合を見せて、評価を上げてやろう」なんて色気が入り込む余地などない。聞いていい質問と、いけない質問があった。2人の言葉を聞き、固い表情を見た瞬間にそう気づかされた。
「記者は見るプロであれ」とは良く言われる言葉だが、深淵なるプロフェッショナルの世界には、その一線をひた走る者にしか、決して見えない風景があるのも事実だ。
レコーダーで聞き返すと、随分、こちらの立場も考えて答えてくれている内藤の言葉。本当は、もっと怒っても良かったんじゃないかとも思う。自分が常に身をさらしている命がけギリギリの世界を「最高の試合」という単純で、耳に優しい言葉で切り取ろうとした質問に対する苛立ちは、はっきりあっただろうから。
リング上の戦いだけが全てではない。記者と取材対象も真剣勝負。取材に無神経な言葉は禁物だ。プロレスラーという豪快かつナイーブなプロフェッショナルたちの生き方の隅々まで見てみたい。そのためには、こちらも言葉を研ぎ澄まさなければいけない。そんなことを思った六本木ヒルズの午後だった。(記者コラム・中村 健吾)
「しまった」と思った時は、もう遅い。自分では「会心のいい質問だ」なんて思った問いかけで、取材相手の意外な苛立ちを誘ってしまうことがある。記者をしていれば、誰でも何回かは経験することだとは思うが。
10日に東京・六本木のテレビ朝日で行われた来年1月4日の新日本プロレス最大の大会、東京ドームでの「WRESTLE KINGDOM12」第1弾カード発表会見。壇上にはメインイベントでIWGPヘビー級王座をかけて戦うことが決まった王者・オカダ・カズチカ(29)と挑戦者、8月の「G1クライマックス27」の覇者・内藤哲也(35)が並んで座っていた。
昨年来、大ブームとなっている“制御不能のカリスマ”内藤率いるユニット「ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン」に敬意を表して「内藤さんのカリスマ性はすごいと思います。会場のお客さんはほとんど、ロス・インゴのTシャツを着た人ばかりだし、2人が戦えば、1・4は新しいことが生まれるんじゃないかと楽しみです」とオカダ。
内藤も「僕から王座を奪って、1年4か月間、防衛を続けている。これは偶然じゃない。オカダに、その力があるからで、素晴らしいチャンピオンだと思いますよ。僕の東京ドーム大会の相手としては、ふさわしいんじゃないですか」と返す。ここ10年の新日を支えてきた「100年に1人の逸材」棚橋弘至(40)の人気を凌駕し、新日の主役の座を争う2人の華やかなツーショットに、こちらも思わず興奮。最後の質問として、思わず聞いてしまった。
「常にすごい試合を提供し続けてきた名勝負製造マシーンの2人ゆえに東京ドームという大舞台で、今までの戦いを上回る最高の試合を見せなければというプレッシャーと不安はありませんか?」。
オカダはケニー・オメガ(33)と今年1月4日の東京ドームのメイン、6月の60分フルタイム・ドローと死闘を演じてきた。内藤も8月13日のオメガとのG1優勝決定戦は個人的に今年のベストバウト。G1史上最長の34分35秒間、全く休むことなく互いに危険な技をかけ合う現在のハイスパート・レスリングの最高峰。客席で涙を浮かべる観客を何人も見かけた、すごい戦いだった。
だからこそ、自分としては、共に笑顔かつ気合の入った表情で熱い戦いを誓う2人―なんて言う構図が浮かぶ“ナイス質問”のつもりだった。ところが…。
司会者に「まず、内藤さん」と答えを求められた内藤は「う~ん」とうなって数秒間、沈黙。「まあ、プロレスにおいて自信がなかったら、僕は新日本のリングに上がってないですよ。自信があるから、今の新日本のリングで戦い続けてきたわけで」と話した後、トレードマークの大きな目で、じっと、こちらを見つめた。「ちょっと申し訳ないですけど、意味不明の質問ですね。自信があるのか、ないのか。じゃ、自信がないですって言ったら、どうなりますか?」と逆に聞かれた。
思わず口ごもると、「自信がなかったら、この場にいないでしょ。自信がなかったら、G1には優勝できませんよ。わざわざ答える必要のない質問ですね」。そう言い放ち、マイクを置いた。
オカダにも「いい試合しようなんて、全然思ってないですよ。まあ、このベルトを守ることが第一だと思ってるんで。そんなことは考えていません」。こちらもあっさりと返された。
相手の技を受け、耐え続け、最後に自身のフィニッシュホールドで相手をマットに沈める。オカダならレインメーカー。内藤ならデスティーノ。必殺技を繰り出した瞬間、両国国技館なら1万人、東京ドームなら2万人を優に超える大観衆の称賛を一身に浴びるのが、プロレスラーという選ばれた存在だ。
ハイスパートに次ぐハイスパート。先鋭化する新日マットで、常に命がけの戦いを展開し、ファンの熱い支持を集めているのが、内藤とオカダであることは間違いない。そこに「いい試合を見せて、評価を上げてやろう」なんて色気が入り込む余地などない。聞いていい質問と、いけない質問があった。2人の言葉を聞き、固い表情を見た瞬間にそう気づかされた。
「記者は見るプロであれ」とは良く言われる言葉だが、深淵なるプロフェッショナルの世界には、その一線をひた走る者にしか、決して見えない風景があるのも事実だ。
レコーダーで聞き返すと、随分、こちらの立場も考えて答えてくれている内藤の言葉。本当は、もっと怒っても良かったんじゃないかとも思う。自分が常に身をさらしている命がけギリギリの世界を「最高の試合」という単純で、耳に優しい言葉で切り取ろうとした質問に対する苛立ちは、はっきりあっただろうから。
リング上の戦いだけが全てではない。記者と取材対象も真剣勝負。取材に無神経な言葉は禁物だ。プロレスラーという豪快かつナイーブなプロフェッショナルたちの生き方の隅々まで見てみたい。そのためには、こちらも言葉を研ぎ澄まさなければいけない。そんなことを思った六本木ヒルズの午後だった。(記者コラム・中村 健吾)