↑ミズノが発表した野球のボール回転数などを計測できる「MAQ(マキュー)」
アマチュア球界に革命が起きるかも知れない。ミズノが4日に発表した「回転数」「回転軸」「球速」を検知できるセンサーを内蔵したボール「MAQ(マキュー)」だ。メジャーリーグやプロ野球一部球団では、レーダーを使った専用機器を球場内に設置して計測しチーム強化に役立てている。そんな大がかりな装置なしに、ボールとスマホだけで手軽に測定できるという。
<<発表会見の記事は「ミズノが投球の回転数など計測できる専用野球ボール開発」http://www.hochi.co.jp/baseball/etc/20170904-OHT1T50152.html>>
なぜ今「回転数」や「回転軸」が注目されるのか? 平均から“外れた”投手が、打者を惑わすからだ。まずは球速のわりに回転数が多い投手。回転数が多いとボールはホップするため、バットの上部にボールが当たる可能性が高くフライでのアウトを取りやすくなる。一方、球速のわりに回転数が少ない投手はボールが垂れるので、ゴロを打たせやすいボールになる。例えば、上原浩治投手のフォーシーム(直球)は、球速のわりに回転数が多い。これがメジャー第一線で活躍できている理由の一つと指摘されている。
MLBの選手データは「STATCAST」(https://baseballsavant.mlb.com/statcast_search)などで公開されており、ファンでも自由に選手の分析ができる。一方、本製品はアマチュア選手が「自分のデータ」を気軽に取得できるのが特徴だ。
「MAQ」発表会では、元DeNAの野球解説者・三浦大輔さん(43)がデモンストレーションに登場した。フォーシームは116キロで30回転/秒。本人は「遅っ」と球速に苦笑いだったが、注目すべきは回転数。110キロ台での一般的な平均は25~26回転/秒程度だという。三浦さんが引退から1年経ってもさすが元プロで、投球時にしっかりボールに回転をかけていたのが分かった。
何事も「習うより慣れろ」。そこで“松坂世代”の元高校球児記者も「MAQ」を使った測定に挑戦した。記憶している硬式球と握った感触や重さは全く同じ。約20年ぶりの硬式球投球で18.44メートルを正確に投げる自信はなかったので、15メートル付近から投げてみた。ストライクゾーンから外れたものの、なんとかキャッチャーミットに収まった。
球速は62.79キロ、回転数は1秒当たり16回転だった。“神スイング”稲村亜美さんの最速103キロにすら遠く及ばなかったものの、結果を見た最初の感想は「楽しい」。「もし20年前にこんな機械があったら、練習も楽しくもっと成長したかもなぁ…」とも思った。開発を担当したミズノ研究開発部の柴田翔平さんからも「一般的な方の数値じゃないでしょうか」とお褒めの言葉をいただきホッとした。
三浦さんは「(現役時代)最初の頃は回転数というより『キレ』などの感覚。数値をはかるものがなかったから、捕手の感想を聞いたけれど、最近は測れるようになりスピードだけじゃなく、回転数=キレのあるボールと言われているのでまた1つ目安が増えたのかな」「具体的な数値として表れるから分かりやすい」と機器を利用するメリットを説明した。
「MAQ」の役立て方について、硬式球を使う中学生などでは「例えばチーム全員に投げさせて、回転数のいい者を投手にするというのもあるかもしれない。もちろんそれだけじゃないけれど。適正ってなかなかわからない。もしかすると『こいつ、外野を守らせていたけれど、回転数あるから投手やらせてみようか』というチームが出てくるのもおもしろいかもしれない」と私見を披露。なるほど、選手の適正を「数値」で割り出せるのは面白い。
さらに「スカウトの人も参考になる数値になるのでは」「キレのあるボールを打っている野手を見つけることもできるのでは」と、これまででは想像もできなかった利用法を語った。
もちろん、数値だけを見て練習するのは本末転倒。体の動き、ボールの握りを自分自身で覚え込ませるために、データを参考に効率的なトレーニングを重ねる。そして打者相手のシート打撃や実戦で、自信を付けていくことが大切だ。
「MAQ」はボールに内蔵した専用センサーで「回転数」「回転軸」「速度」のデータを取得。スマホ(発売時はiOSのみ)にインストールした専用アプリケーションとボールをBluetoothで連動させることで、投手の投げたボールを分析できる。充電は非接触型の専用充電器(別売り)で行う。
ミズノの柴田さんによると、現在の「回転数」「回転軸」「球速」の3種類に加え、「テイクバックの動き」「軌道(ボールの変化量)」も計測できるよう開発を進めているという。これらはスマホにインストールする解析アプリのアップデートで対応するため、ボールの買い直しは不要だという。
アップデートにより、テイクバックの動きやリリースポイントも計測できるようになると、自身の球種ごとのクセなどをつかむことができる。「同じ腕の振りで球種を投げ分ける」コツをつかめば、より打たれにく投手に近づけるだろう。
来春発売される「MAQ」の価格は、ボールが1万9800円、別売り充電器が1万5000円(ともに税別)。中高生個人では高価だが、チームに1球あれば何年も使い回しも可能だ。また、投球した本人が平均と比較できるよう、同社としてもデータを集めていくという。
今後の課題は「回転数」「回転軸」などの意味を、選手だけでなく指導者にもしっかり理解してもらうことだろう。厳密に説明を進めると「マグヌス効果」など物理用語が出てしまうため、それなりの勉強が必要だ。さらに、回転数も球種ごとに特徴があることを理解することも必要だ。
これまで投手は捕手や指導者の「感想」のみでしか「自分の球質」を確認できなかった。最新のテクノロジーをトレーニングに取り入れフォーム修正や様々なボールの握りを試すことができれば、アマチュア球界の指導は新しい段階に入るだろう。(メディア局 田中孝憲=@CFgmb)
アマチュア球界に革命が起きるかも知れない。ミズノが4日に発表した「回転数」「回転軸」「球速」を検知できるセンサーを内蔵したボール「MAQ(マキュー)」だ。メジャーリーグやプロ野球一部球団では、レーダーを使った専用機器を球場内に設置して計測しチーム強化に役立てている。そんな大がかりな装置なしに、ボールとスマホだけで手軽に測定できるという。
<<発表会見の記事は「ミズノが投球の回転数など計測できる専用野球ボール開発」http://www.hochi.co.jp/baseball/etc/20170904-OHT1T50152.html>>
なぜ今「回転数」や「回転軸」が注目されるのか? 平均から“外れた”投手が、打者を惑わすからだ。まずは球速のわりに回転数が多い投手。回転数が多いとボールはホップするため、バットの上部にボールが当たる可能性が高くフライでのアウトを取りやすくなる。一方、球速のわりに回転数が少ない投手はボールが垂れるので、ゴロを打たせやすいボールになる。例えば、上原浩治投手のフォーシーム(直球)は、球速のわりに回転数が多い。これがメジャー第一線で活躍できている理由の一つと指摘されている。
MLBの選手データは「STATCAST」(https://baseballsavant.mlb.com/statcast_search)などで公開されており、ファンでも自由に選手の分析ができる。一方、本製品はアマチュア選手が「自分のデータ」を気軽に取得できるのが特徴だ。
「MAQ」発表会では、元DeNAの野球解説者・三浦大輔さん(43)がデモンストレーションに登場した。フォーシームは116キロで30回転/秒。本人は「遅っ」と球速に苦笑いだったが、注目すべきは回転数。110キロ台での一般的な平均は25~26回転/秒程度だという。三浦さんが引退から1年経ってもさすが元プロで、投球時にしっかりボールに回転をかけていたのが分かった。
何事も「習うより慣れろ」。そこで“松坂世代”の元高校球児記者も「MAQ」を使った測定に挑戦した。記憶している硬式球と握った感触や重さは全く同じ。約20年ぶりの硬式球投球で18.44メートルを正確に投げる自信はなかったので、15メートル付近から投げてみた。ストライクゾーンから外れたものの、なんとかキャッチャーミットに収まった。
球速は62.79キロ、回転数は1秒当たり16回転だった。“神スイング”稲村亜美さんの最速103キロにすら遠く及ばなかったものの、結果を見た最初の感想は「楽しい」。「もし20年前にこんな機械があったら、練習も楽しくもっと成長したかもなぁ…」とも思った。開発を担当したミズノ研究開発部の柴田翔平さんからも「一般的な方の数値じゃないでしょうか」とお褒めの言葉をいただきホッとした。
三浦さんは「(現役時代)最初の頃は回転数というより『キレ』などの感覚。数値をはかるものがなかったから、捕手の感想を聞いたけれど、最近は測れるようになりスピードだけじゃなく、回転数=キレのあるボールと言われているのでまた1つ目安が増えたのかな」「具体的な数値として表れるから分かりやすい」と機器を利用するメリットを説明した。
「MAQ」の役立て方について、硬式球を使う中学生などでは「例えばチーム全員に投げさせて、回転数のいい者を投手にするというのもあるかもしれない。もちろんそれだけじゃないけれど。適正ってなかなかわからない。もしかすると『こいつ、外野を守らせていたけれど、回転数あるから投手やらせてみようか』というチームが出てくるのもおもしろいかもしれない」と私見を披露。なるほど、選手の適正を「数値」で割り出せるのは面白い。
さらに「スカウトの人も参考になる数値になるのでは」「キレのあるボールを打っている野手を見つけることもできるのでは」と、これまででは想像もできなかった利用法を語った。
もちろん、数値だけを見て練習するのは本末転倒。体の動き、ボールの握りを自分自身で覚え込ませるために、データを参考に効率的なトレーニングを重ねる。そして打者相手のシート打撃や実戦で、自信を付けていくことが大切だ。
「MAQ」はボールに内蔵した専用センサーで「回転数」「回転軸」「速度」のデータを取得。スマホ(発売時はiOSのみ)にインストールした専用アプリケーションとボールをBluetoothで連動させることで、投手の投げたボールを分析できる。充電は非接触型の専用充電器(別売り)で行う。
ミズノの柴田さんによると、現在の「回転数」「回転軸」「球速」の3種類に加え、「テイクバックの動き」「軌道(ボールの変化量)」も計測できるよう開発を進めているという。これらはスマホにインストールする解析アプリのアップデートで対応するため、ボールの買い直しは不要だという。
アップデートにより、テイクバックの動きやリリースポイントも計測できるようになると、自身の球種ごとのクセなどをつかむことができる。「同じ腕の振りで球種を投げ分ける」コツをつかめば、より打たれにく投手に近づけるだろう。
来春発売される「MAQ」の価格は、ボールが1万9800円、別売り充電器が1万5000円(ともに税別)。中高生個人では高価だが、チームに1球あれば何年も使い回しも可能だ。また、投球した本人が平均と比較できるよう、同社としてもデータを集めていくという。
今後の課題は「回転数」「回転軸」などの意味を、選手だけでなく指導者にもしっかり理解してもらうことだろう。厳密に説明を進めると「マグヌス効果」など物理用語が出てしまうため、それなりの勉強が必要だ。さらに、回転数も球種ごとに特徴があることを理解することも必要だ。
これまで投手は捕手や指導者の「感想」のみでしか「自分の球質」を確認できなかった。最新のテクノロジーをトレーニングに取り入れフォーム修正や様々なボールの握りを試すことができれば、アマチュア球界の指導は新しい段階に入るだろう。(メディア局 田中孝憲=@CFgmb)