↑西武・上本達之
不思議な感覚だった。目の前にいるのはプロ野球選手のはずなのに、指導者と会話をしているような感覚に陥った。22日に行われた西武―ヤクルトのオープン戦。試合前の神宮球場のグラウンドで、西武・上本達之捕手(36)を取材している時だった。
「ちょっとしたきっかけになってくれればいいんです。いい気分で野球をやってもらいたいというか…」
20日に登板した多和田が、試合中に上本に助言を求めたことを知り、プロ15年目を迎えるベテランはどのような思いで助言を送っているのだろうと気になった。そんな思いで質問をぶつけると、返ってきた答えは予想外なものだった。
「僕はそんなにすごい選手じゃないから、打撃練習をしていても楽しくないことがある。でも、ちょっとしたきっかけで打てると楽しくなってくる。その感じをみんなにも持ってもらいたいんです」
捕手はグラウンド上で1人だけ反対方向を向き、「第2の監督」とも呼ばれる。グラウンド全体を見渡し、細部まで気配りを怠らないポジションを守り続けてきたからこその発想なのかもしれない。実際に普段から周囲に細かく目を配っているように見える。練習中から周りの選手に積極的に声をかけ、時には少し厳しめのヤジも飛ばす。周囲がヤジに呼応する形で、チーム全体にいい雰囲気が広がっていく。その安心感を頼りに、若手選手がアドバイスを求めてくるのだろう。
根底にある思いを明かした後には、助言を送る際の危険性について話してくれた。「適当なことは言えない。適当なことを言うくらいなら『分からない』と言った方がいいんです」。結果が全てのプロの世界。中途半端な助言はその選手の選手生命を短くしたり、絶つことにもつながりかねない。責任の重さを理解した上で導き出される言葉だからこそ、説得力がある。
話を聞きながら、記者自身が上本の優しさに触れた出来事を思い出した。今年2月の宮崎・南郷キャンプ、休養日前日の夜のことだ。取材を終えて先輩記者と食事に出かけると、店のドアを開けた瞬間、正面の席に上本が関係者と座っているのが見えた。自然と目が合い、会釈をしながら少し離れたテーブル席に座った。
そして数十分後。先に店を出た上本にあいさつを済ませ、自席に戻った時だった。「こちら上本さんからです」。そう言った店員の手には、焼酎のボトルが握られていた。上本からの差し入れだった。後日、余計な気を遣わせてしまったのではないかという謝罪と、感謝を伝えるためにあいさつへ向かうと笑顔で対応してくれた。担当になって1か月程度の記者を気遣ってくれる姿を見て、周囲から慕われる理由がよく分かった。
「そういうのが西武が強くなるきっかけになるんじゃないのかな、と思うんです」。試合前のグラウンドを見つめながら、上本はそう話を締めた。チームは31日に9年ぶりの日本一を目指して開幕を迎える。頼れるベテランは今季、どんな言葉でチームを救っていくのだろうか。いまから楽しみにしている。
不思議な感覚だった。目の前にいるのはプロ野球選手のはずなのに、指導者と会話をしているような感覚に陥った。22日に行われた西武―ヤクルトのオープン戦。試合前の神宮球場のグラウンドで、西武・上本達之捕手(36)を取材している時だった。
「ちょっとしたきっかけになってくれればいいんです。いい気分で野球をやってもらいたいというか…」
20日に登板した多和田が、試合中に上本に助言を求めたことを知り、プロ15年目を迎えるベテランはどのような思いで助言を送っているのだろうと気になった。そんな思いで質問をぶつけると、返ってきた答えは予想外なものだった。
「僕はそんなにすごい選手じゃないから、打撃練習をしていても楽しくないことがある。でも、ちょっとしたきっかけで打てると楽しくなってくる。その感じをみんなにも持ってもらいたいんです」
捕手はグラウンド上で1人だけ反対方向を向き、「第2の監督」とも呼ばれる。グラウンド全体を見渡し、細部まで気配りを怠らないポジションを守り続けてきたからこその発想なのかもしれない。実際に普段から周囲に細かく目を配っているように見える。練習中から周りの選手に積極的に声をかけ、時には少し厳しめのヤジも飛ばす。周囲がヤジに呼応する形で、チーム全体にいい雰囲気が広がっていく。その安心感を頼りに、若手選手がアドバイスを求めてくるのだろう。
根底にある思いを明かした後には、助言を送る際の危険性について話してくれた。「適当なことは言えない。適当なことを言うくらいなら『分からない』と言った方がいいんです」。結果が全てのプロの世界。中途半端な助言はその選手の選手生命を短くしたり、絶つことにもつながりかねない。責任の重さを理解した上で導き出される言葉だからこそ、説得力がある。
話を聞きながら、記者自身が上本の優しさに触れた出来事を思い出した。今年2月の宮崎・南郷キャンプ、休養日前日の夜のことだ。取材を終えて先輩記者と食事に出かけると、店のドアを開けた瞬間、正面の席に上本が関係者と座っているのが見えた。自然と目が合い、会釈をしながら少し離れたテーブル席に座った。
そして数十分後。先に店を出た上本にあいさつを済ませ、自席に戻った時だった。「こちら上本さんからです」。そう言った店員の手には、焼酎のボトルが握られていた。上本からの差し入れだった。後日、余計な気を遣わせてしまったのではないかという謝罪と、感謝を伝えるためにあいさつへ向かうと笑顔で対応してくれた。担当になって1か月程度の記者を気遣ってくれる姿を見て、周囲から慕われる理由がよく分かった。
「そういうのが西武が強くなるきっかけになるんじゃないのかな、と思うんです」。試合前のグラウンドを見つめながら、上本はそう話を締めた。チームは31日に9年ぶりの日本一を目指して開幕を迎える。頼れるベテランは今季、どんな言葉でチームを救っていくのだろうか。いまから楽しみにしている。