↑WBC連覇を成し遂げ喜ぶ原監督
↑延長10回2死二、三塁、イチローが中前に決勝タイムリーを放った
第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の2次R(ラウンド)が始まった。1次Rを3連勝で突破した侍ジャパンは、12日のオランダ戦で延長11回タイブレークまでもつれた死闘を制した。5番の中田が3試合連続本塁打に決勝の適時打、坂本がつなぎ役に徹し、菊池がスーパープレーで危機を救った。捕手の小林も攻守に輝きを放った。9人の継投で耐えに耐え、粘るオランダを振り切り、どうしてもとりたかった初戦をものにした小久保ジャパン。14日のキューバ戦に勝てば、決勝Rのアメリカ行きへ大きく前進する。
世界一を目指す指揮官には、どんな状況にも動じない固い意志と冷静さ、そしてここぞの決断力が必要とされる。広い視野を持ち、様々な局面で的確な判断を下すには心の余裕も必要だろう。その“余裕”を感じた監督がいる。
2009年第2回大会で日本代表を率いた原辰徳前巨人監督(58)だ。あの大会、カメラマンの私は、予選Rから決勝までの全試合を取材した。
サンディエゴで行われた2次R初戦のキューバ戦前。試合中の選手の表情を至近距離から撮影しようと、ベンチ横に無線でシャッターが切れるリモコンカメラをセットした。「チームに許可を取った方がいいかな」と考えていると、原監督が興味深そうにやって来て「へえ、リモコンカメラか?面白そうだな、いい写真撮ってくれよ」。ベンチの覗き見は嫌がられる事も多いが、普段からサービス精神旺盛な監督は余裕の表情で快諾してくれた。その日、チームは快勝。ベンチで盛り上がる選手を撮影する事ができた。
大会期間中のオン・オフの切り替えも絶妙だった。準決勝の米国戦を控えた練習日。報道陣との雑談の中で、メジャー球団との練習試合で訪れたアリゾナでの話題になった。ある夜、日本食店で原監督とスタッフに遭遇したことがあり、「君たちも来てたの。ここ、美味しいからねぇ」と言い残し笑顔で店を出て行ったのだが、この日は報道陣の中に私を見つけると「この間、何食べたの?」と逆“取材”。「とんこつラーメンです」と答えると「俺はカツカレー、やっぱり勝負事の前はね」と豪快に笑い飛ばしていた。
大会連覇を期待され、イチロー、松坂、城島、岩村、福留の5人のメジャーリーガーを含むスター軍団を率いての戦いは、重圧との闘いであったに違いない。今ひとつ結果の出なかったダルビッシュを準決勝から抑えに抜てき。不振を極めたイチローを信じて使い続け、決勝では試合を決める一打を引き出した。
世界一となった祝勝会で「本当にお前さんたちはね。素晴らしい。強いサムライになった!」と選手を讃え、勝利の美酒に酔った原監督。しかしつい先日、テレビで当時を振り返ると「緊張したのは東京での開幕戦の試合直前だけ。その時は胃薬を飲んだけど、その後はそうでもなかった」と話していた。
「やっぱり余裕だったんだぁ」―通常のペナントレースとは全く異質の大会も、百戦錬磨の監督にとっては、なんのその。真剣勝負の中にも、どこかで楽しむ気持ちがないとプレッシャーに押しつぶされるという事なのかもしれない。あの試合、決勝打を放ったイチローも「ここで打ったら日本でもすごいことになるだろうなと思って(打席に立ち)自分で実況していた」と語った。「僕は持っていますね。神が降りてきました」の名文句を残した天才打者。究極の場面でも自身を客観視し、”勝負を楽しむ”ことで伝説の一打は生まれたのだ。
現在、侍ジャパンは決戦の真っただ中。とても勝負を楽しむ気にはなれないと思うが、小久保監督を中心に試合を重ねる度に結束を高めてきている戦士たち。世界一奪還への道は険しいが、最後は全員で「楽しかった」と笑顔で帰国してもらいたい
↑延長10回2死二、三塁、イチローが中前に決勝タイムリーを放った
第4回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の2次R(ラウンド)が始まった。1次Rを3連勝で突破した侍ジャパンは、12日のオランダ戦で延長11回タイブレークまでもつれた死闘を制した。5番の中田が3試合連続本塁打に決勝の適時打、坂本がつなぎ役に徹し、菊池がスーパープレーで危機を救った。捕手の小林も攻守に輝きを放った。9人の継投で耐えに耐え、粘るオランダを振り切り、どうしてもとりたかった初戦をものにした小久保ジャパン。14日のキューバ戦に勝てば、決勝Rのアメリカ行きへ大きく前進する。
世界一を目指す指揮官には、どんな状況にも動じない固い意志と冷静さ、そしてここぞの決断力が必要とされる。広い視野を持ち、様々な局面で的確な判断を下すには心の余裕も必要だろう。その“余裕”を感じた監督がいる。
2009年第2回大会で日本代表を率いた原辰徳前巨人監督(58)だ。あの大会、カメラマンの私は、予選Rから決勝までの全試合を取材した。
サンディエゴで行われた2次R初戦のキューバ戦前。試合中の選手の表情を至近距離から撮影しようと、ベンチ横に無線でシャッターが切れるリモコンカメラをセットした。「チームに許可を取った方がいいかな」と考えていると、原監督が興味深そうにやって来て「へえ、リモコンカメラか?面白そうだな、いい写真撮ってくれよ」。ベンチの覗き見は嫌がられる事も多いが、普段からサービス精神旺盛な監督は余裕の表情で快諾してくれた。その日、チームは快勝。ベンチで盛り上がる選手を撮影する事ができた。
大会期間中のオン・オフの切り替えも絶妙だった。準決勝の米国戦を控えた練習日。報道陣との雑談の中で、メジャー球団との練習試合で訪れたアリゾナでの話題になった。ある夜、日本食店で原監督とスタッフに遭遇したことがあり、「君たちも来てたの。ここ、美味しいからねぇ」と言い残し笑顔で店を出て行ったのだが、この日は報道陣の中に私を見つけると「この間、何食べたの?」と逆“取材”。「とんこつラーメンです」と答えると「俺はカツカレー、やっぱり勝負事の前はね」と豪快に笑い飛ばしていた。
大会連覇を期待され、イチロー、松坂、城島、岩村、福留の5人のメジャーリーガーを含むスター軍団を率いての戦いは、重圧との闘いであったに違いない。今ひとつ結果の出なかったダルビッシュを準決勝から抑えに抜てき。不振を極めたイチローを信じて使い続け、決勝では試合を決める一打を引き出した。
世界一となった祝勝会で「本当にお前さんたちはね。素晴らしい。強いサムライになった!」と選手を讃え、勝利の美酒に酔った原監督。しかしつい先日、テレビで当時を振り返ると「緊張したのは東京での開幕戦の試合直前だけ。その時は胃薬を飲んだけど、その後はそうでもなかった」と話していた。
「やっぱり余裕だったんだぁ」―通常のペナントレースとは全く異質の大会も、百戦錬磨の監督にとっては、なんのその。真剣勝負の中にも、どこかで楽しむ気持ちがないとプレッシャーに押しつぶされるという事なのかもしれない。あの試合、決勝打を放ったイチローも「ここで打ったら日本でもすごいことになるだろうなと思って(打席に立ち)自分で実況していた」と語った。「僕は持っていますね。神が降りてきました」の名文句を残した天才打者。究極の場面でも自身を客観視し、”勝負を楽しむ”ことで伝説の一打は生まれたのだ。
現在、侍ジャパンは決戦の真っただ中。とても勝負を楽しむ気にはなれないと思うが、小久保監督を中心に試合を重ねる度に結束を高めてきている戦士たち。世界一奪還への道は険しいが、最後は全員で「楽しかった」と笑顔で帰国してもらいたい