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由伸監督のノックに「歓喜の物語」の序章を見た

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↑沖縄キャンプで高橋監督(手前)からノックを受ける村田

 いい写真の条件とは何か。「読むべき物語がある」と読売新聞夕刊のコラムに寄せていたのは「暮らしの手帖」編集長を務めた松浦弥太郎氏だ。写真で物語を表現するのは難しい。

 見る者の想像をかき立てるというよりは読者にわかりやすく、ダイレクトに伝えなければいけないのが新聞だ。この日の出来事も紙面では実に10枚もの写真を使っていた。コラムの中で写真とは読むもの、「たった1枚の描写で、何百枚なり、数十枚なりの文章を表現しようと試みた行為」だと書かれていた。

 沖縄キャンプの第1クールで阿部、村田、坂本勇に高橋由伸監督がノックを敢行した。右手に愛用のノックバットを握りしめて小走りにベンチから飛び出して来た由伸監督。注目された最初のスイング、ボテボテの打球が坂本勇のグラブへ収まった。「ヘイヘイヘーイ!」容赦のないヤジが飛び、球場全体が沸いた。

 特に練習メニューに書かれていたわけではなかった。ただ、予兆はあった。早出特守で井端コーチの隣に由伸監督が立っていたのだ。沖縄に来てから朝練に監督がいたことはなかった。

 (まさかな・・・)こちらの淡い願いも空しく、この時は最後までコーチの隣でつぶさにノックの様子を見つめているだけだった。 その日の午後、「どうやら監督がノックをするらしい」との情報が報道陣を駆け巡った。これに私の心は躍った。思えば突然の監督就任以来、彼が躍動している姿を撮影したことがなかった。プロ入り以来、ずっとレンズを向けていたあの「ヨシノブ」ではない。

 「あんまり上手じゃない」受けた村田が冗談交じりに言えば、「カット、カット!(してる)」阿部もグラウンドで遠慮なく叫んだ。

 後日、ノックのコツを聞いた。「(球を)叩かないと。カット(打ち)はだめ。実際の打球ではないから」と監督。「タイミングが合えばね。いつでも」と言うが、彼のノックは特別でいい。技術うんぬんより、やったことが重要だと。

 ラスト10分は強いノックで左右に振った。3人のユニホームはあっという間に真っ黒になった。「最初からやるとバテちゃうから。井端コーチと話して時間を見てね」ニヤリと笑った。

 あの場にいたファン、報道陣、皆が引き込まれたノッカーと野手の丁々発止のやり取りは約1時間、347球で終了した。私はこのシーンを夢中で撮影していた。総シャッターは2064回を数えていた。

 写真には、しごかれているはずなのに笑顔の村田がいる。阿部や坂本勇も笑顔でノックを受けていた。

 「頼むぞ」期待を込めたボールは指揮官のバットから放たれ、選手はそれをがっちりと受けとめる。嬉しくないはずがない。

 「いい写真」とはほど遠いが、今シーズンが終わったとき、この1枚に歓喜の「物語」が付いてくることを願っている。優勝への道のりはここから始まったのだと。

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